アトランタイド (Atlantis)
『アトランタイド』(原題: Atlantis)は、2001年に公開されたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ製作のアニメーション映画である。監督はゲイリー・トルースデールとカーク・ワイズ。脚本はジャック・ヘンリー・マクレー、アラン・バロウ、ロバート・シーゲル、ケリー・マシュー・サイラス、ブレッキ・イーサン・ルービンが務めた。音楽はジェームズ・ニュートン・ハワードが担当し、楽曲はスティーヴン・シュワルツが作詞した。
あらすじ
物語は、巨大な氷河に包まれた伝説の都市アトランティスを舞台に、若き言語学者であるマイロ・サッチの冒険を描く。マイロは、祖父である偉大な探検家アーチー・サッチが遺した手記と、アトランティスの地図と呼ばれる不思議な水晶を手がかりに、失われた都市の発見に人生を捧げていた。しかし、彼の研究は周囲からは嘲笑の的となり、資金援助も得られずにいた。
そんな中、謎めいた大富豪であり冒険家のプレストン・ビッガム卿が現れ、マイロに資金と船を提供することを約束する。ビッガム卿の真の目的は、アトランティスの秘宝である「アトランティスの心臓」と呼ばれる巨大なクリスタルを手に入れることだった。マイロは、ビッガム卿の用意した個性豊かなクルーと共に、危険な海底探査に乗り出す。
度重なる困難を乗り越え、ついにアトランティスを発見したマイロたちは、そこで高度な文明と平和な生活を営むアトランティス人たちと出会う。アトランティスは、かつて地上にあった文明が、自らの力で海に沈んだ都市を維持し続けていたのだ。マイロは、アトランティス王であるロメス王の娘、キーダ王女と出会い、彼女の知性と美しさに惹かれていく。
しかし、マイロがアトランティスに到着した頃、ビッガム卿の真の目的が明らかになり、アトランティスは危機に瀕する。ビッガム卿はアトランティスの心臓を奪い、そのエネルギーで莫大な富を得ようと企んでいたのだ。アトランティス人は、かつて地上文明の争いに嫌気が差し、高度な技術と「アトランティスの心臓」の力によって自ら海中へと隠遁した過去があった。彼らは再び地上の人間との関わりを拒んでいた。
マイロは、アトランティスを愛し、キーダ王女との間に芽生えた愛情から、アトランティスを守るために立ち上がる。彼は、アトランティス人の言葉を理解し、彼らとの橋渡し役となる。ビッガム卿の裏切りと、アトランティスが崩壊の危機に瀕する中、マイロはキーダ王女やアトランティス人、そしてかつては疑念を抱いていたクルーたちと共に、都市を守るための壮絶な戦いに挑むことになる。
登場人物
マイロ・サッチ
本作の主人公。考古学者であり、言語学者。幼い頃からアトランティスの伝説に魅せられ、その発見に生涯を捧げている。内気で控えめだが、知的好奇心と探求心は誰よりも強い。アトランティス語を解読できる唯一の人物であり、アトランティス人と地上世界との架け橋となる。
キーダ王女
アトランティスの王女。賢く、聡明で、国民から深く尊敬されている。マイロと出会い、地上世界の存在を知り、アトランティス人の固定観念に疑問を抱き始める。マイロの誠実さに惹かれ、二人の間には特別な絆が生まれる。
ロメス王
アトランティスの国王であり、キーダ王女の父。かつて地上文明の争いを経験し、アトランティス人を海中に導いた指導者。地上の人間を信用しておらず、アトランティス人を外界から隔離し続けている。
プレストン・ビッガム卿
物語の黒幕。表向きはマイロに協力する大富豪で冒険家だが、その実、アトランティスの秘宝「アトランティスの心臓」を奪い、私腹を肥やそうと企む。冷酷で狡猾な人物。
ガーター
ビッガム卿の配下であり、クルーの一員。大柄で粗暴だが、どこか憎めないキャラクター。
ルカ
クルーの一員。医師。冷静沈着な性格。
ジェフ
クルーの一員。パイロット。陽気な性格。
バブ
アトランティス人の偉大な戦士。キーダ王女に忠誠を誓っており、マイロとも次第に信頼関係を築いていく。
制作背景
『アトランタイド』は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが、従来のプリンセス物語とは異なる、冒険活劇色の強い作品を目指して制作された。監督のゲイリー・トルースデールとカーク・ワイズは、過去に『美女と野獣』でタッグを組んでおり、本作でもその手腕を発揮した。
本作の大きな特徴は、その斬新な設定と、CG技術の積極的な導入にある。失われた古代文明アトランティスを舞台に、SF的な要素とファンタジーが融合した世界観が構築された。特に、アトランティス都市の壮大で幻想的な描写は、当時のCG技術を駆使して実現され、観客に強い印象を与えた。
また、アトランティス語という架空の言語を創造し、それを物語の重要な要素として組み込んだ点も特筆される。言語学者であるマイロが、この言語を解読していく過程は、物語の鍵となる。
音楽も本作の魅力の一つであり、ジェームズ・ニュートン・ハワードによる壮大なスコアと、スティーヴン・シュワルツによる心に響く楽曲が、物語の世界観を一層深めている。
評価と興行成績
『アトランタイド』は、批評家からは概ね好意的な評価を受けた。特に、その革新的なビジュアル、独特な世界観、そして冒険活劇としてのエンターテイメント性が高く評価された。しかし、一部では、ストーリー展開の速さや、キャラクター描写の深さに課題を指摘する声もあった。
興行成績は、世界累計で約1億2000万ドルにとどまり、ディズニー・アニメーション作品としてはやや苦戦した部類に入る。しかし、その後のホームビデオリリースや、ファンからの支持により、カルト的な人気を獲得していった。
その他
『アトランタイド』は、当初はミュージカル形式で制作される予定だったが、監督のゲイリー・トルースデールとカーク・ワイズの意向により、冒険活劇として再構築された。そのため、ディズニー・アニメーション作品としては珍しく、歌のシーンがほとんどない。
本作のキャラクターデザインは、漫画家のマイク・ミニョーラが担当しており、独特の力強いタッチがアトランティス世界の雰囲気を醸し出している。
『アトランタイド』は、2003年には続編となるOVA『アトランティス 2:失われた帝国』(原題: Atlantis: Milo’s Return)が製作・公開された。
まとめ
『アトランタイド』は、ディズニー・アニメーションの伝統に囚われず、新たな挑戦を試みた意欲作である。失われた文明アトランティスという壮大な舞台設定、SFとファンタジーの融合、そしてCG技術を駆使した美麗な映像は、観る者に強烈なインパクトを与える。主人公マイロの成長と、アトランティスという魅惑的な世界を守るための冒険は、世代を超えて楽しめるエンターテイメント作品と言えるだろう。歌が少ないというディズニー作品としては異例な点も、本作の独自性を際立たせている。興行面では苦戦したものの、その斬新なアイデアと魅力的な世界観は、今なお多くのファンに支持されている。

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