ガリバーの大冒険 (1939年)
作品概要
『ガリバーの大冒険』(原題: Gulliver’s Travels)は、1939年に公開されたアメリカのアニメーション映画です。フライシャー・スタジオが制作し、パラマウント映画が配給しました。ジョナサン・スウィフトの古典的風刺小説『ガリバー旅行記』を原作としていますが、子供向けにアレンジされた、より明るく冒険的な物語となっています。この映画は、アメリカの長編アニメーション映画としては『白雪姫』に次ぐ2番目の作品であり、それまでのアニメーションの技術的な限界を押し広げた作品としても知られています。
あらすじ
物語は、冒険好きな船乗りであるレミュエル・ガリバーが、嵐で遭難し、見知らぬ島「リリパット」に漂着するところから始まります。リリパットは、身長わずか6インチ(約15センチ)の小人たちが暮らす国でした。ガリバーは、その巨体ゆえに最初はリリパットの人々に捕らえられますが、やがて彼らの脅威となっていた隣国「ブロブディンナグ」の巨大な巨人たちからリリパットを守るために協力するようになります。
ブロブディンナグは、リリパットとは正反対に、身長がガリバーよりもはるかに大きい巨人たちが住む国でした。ガリバーは、リリパットのためにブロブディンナグの巨人たちの王女であるプリンセス・グロリア・ボブディブとの関係を築き、リリパットの平和を維持しようと奮闘します。しかし、リリパット国内でも、国王の命令に背く王女(プリンセス・デイジー)や、ガリバーを排除しようとする内乱の火種など、様々な困難が待ち受けていました。
ガリバーは、この小さな国で起こる愛憎劇や権力争いに巻き込まれながらも、持ち前の勇気と知恵で乗り越え、最終的にはリリパットの平和を取り戻し、故郷へと帰還するのでした。
制作背景と技術
『ガリバーの大冒険』は、フライシャー・スタジオが『ポパイ』や『ベティ・ブープ』といった短編アニメーションで培った技術を、長編アニメーションに活かした意欲作でした。当時の長編アニメーション制作は非常に困難であり、この作品も例外ではありませんでした。
本作で特筆すべきは、その複雑なカメラワークと独特の色彩感覚です。特に、ガリバーの視点とリリパットの人々の視点を巧みに切り替えることで、スケール感やキャラクターの感情を効果的に表現しています。また、当時としては先進的な「リミテッド・アニメーション」の手法が用いられており、キャラクターの動きを滑らかに見せるために、限られた枚数のセル画で効率的にアニメーションを作成していました。
音楽も本作の魅力の一つです。 polio jazz の影響を受けた、リズミカルでキャッチーな楽曲が数多く使用されており、物語を盛り上げています。中でも、リリパットの小人たちが歌う「All’s Well」や、ガリバーが歌う「I’ll Live My Life in a Song」などは、映画の雰囲気を象徴する名曲として親しまれています。
登場人物
レミュエル・ガリバー
本作の主人公であり、勇敢で心優しい船乗りです。リリパットの小人たちからは「巨人」として恐れられますが、やがて彼らの守護者となります。彼の人間的な視点と、リリパットの小人たちの視点の対比が、物語の面白さを生み出しています。
プリンセス・デイジー
リリパットの王女で、ガリバーに好意を寄せます。しかし、彼女の立場や周囲の思惑によって、ガリバーとの関係は複雑なものとなります。
プリンセス・グロリア・ボブディブ
ブロブディンナグの巨人たちの王女。ガリバーとは異なるスケールで描かれるキャラクターですが、物語の展開において重要な役割を果たします。
キング・ピッコロ
リリパットの国王。当初はガリバーを脅威とみなしますが、物語の進行とともに彼の態度も変化していきます。
原作との違い
スウィフトの原作『ガリバー旅行記』は、当時のイギリス社会や人間性を風刺した、かなりシニカルで大人向けの作品でした。しかし、フライシャー・スタジオによる本作は、子供たちにも分かりやすく、よりエンターテイメント性の高い冒険活劇として再構築されています。
原作で描かれるリリパットの政治的な対立や、ガリバーの人間に対する幻滅といった要素は、本作では大幅に削除または簡略化されています。代わりに、ロマンスや友情、そして善と悪の対決といった、より普遍的なテーマが強調されています。また、ブロブディンナグの巨人の描写も、原作とは異なり、より友好的な存在として描かれています。
評価と影響
『ガリバーの大冒険』は、公開当時、批評家からは賛否両論がありましたが、その革新的なアニメーション技術と、魅力的なキャラクター、そして親しみやすい物語は、多くの観客に支持されました。特に、長編アニメーションの可能性を示す作品として、後世のアニメーション映画に大きな影響を与えたと言えます。
本作は、フライシャー・スタジオにとって、長編アニメーション分野での挑戦の第一歩でした。この経験は、後に彼らが手掛けることになる『スーパーマン』シリーズなどの成功にも繋がっていきます。また、リリパットの小人たちが織りなす、コミカルで時に感動的な人間ドラマは、子供たちの想像力を刺激し、長きにわたって愛される作品となりました。
まとめ
『ガリバーの大冒険』(1939年)は、古典文学を基にした、アメリカ初期の長編アニメーション映画の金字塔です。フライシャー・スタジオの情熱と技術力が結集された本作は、子供向けの冒険活劇として再構築され、その独特な映像表現、リズミカルな音楽、そして魅力的なキャラクターたちは、時代を超えて多くの人々に楽しまれてきました。原作の持つ風刺的な側面は薄められましたが、それによってより幅広い観客に親しまれる普遍的な物語となったと言えるでしょう。アメリカアニメーション史における重要な一歩となった作品であり、その後のアニメーション作品に多大な影響を与えました。

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