電送人間;densoningen

歴代SF映画情報

映画『電送人間』(1959年) 詳細・その他

作品概要

『電送人間』は、1959年(昭和34年)に東宝によって製作・配給された特撮SF映画です。円谷英二が特技監督を務め、技術と創造性が融合した当時の日本の特撮技術の粋を集めた作品として、現在も多くのファンに愛されています。高度な科学技術への憧れと、それがもたらす倫理的・社会的な問題提起を内包した SF 作品の金字塔と言えるでしょう。

あらすじ

物語は、天才科学者・大月博士が開発した「電子増幅機」がもたらす驚異的な現象から始まります。この装置は、人間を電送するという、まるでSF小説のような技術を実現するものでした。しかし、その開発過程で、博士の助手であった川島が実験の事故により、全身が電子の塊となってしまうという悲劇が起こります。川島は、自分自身が電送の能力を得たことに気づき、その力を利用して次々と犯罪を企てます。表向きは姿を消した天才科学者、しかしその裏では、かつての助手であった電送人間が、復讐と欲望のために悪事を働くという、二重構造の物語が展開されます。

警視庁の平山警部と、新聞記者の沢村は、不可解な事件の数々に首を傾げながらも、電送人間という存在の影に迫っていきます。犯行現場に一切の痕跡を残さず、瞬時に現れては消える電送人間の手口は、捜査網を掻い潜り、彼らを翻弄します。やがて、平山警部と沢村は、事件の背後に大月博士の存在が関わっていることを突き止め、博士の研究所へと向かいます。そこで彼らを待ち受けていたのは、衝撃の真実と、電送人間との壮絶な対決でした。

主な登場人物

  • 大月博士:天才的な科学者で、「電子増幅機」を開発した人物。その技術の危険性を理解しつつも、研究に没頭する。
  • 川島:大月博士の助手。事故により全身が電子の塊と化し、電送人間となる。復讐心と歪んだ欲望に駆られる。
  • 平山警部:事件の捜査を指揮する刑事。粘り強い捜査で電送人間の正体に迫る。
  • 沢村:事件を追う新聞記者。平山警部と共に電送人間の謎を追う。

特撮技術と見どころ

『電送人間』の最大の魅力は、円谷英二による革新的な特撮技術にあります。電送される人間の姿を表現するために、当時としては最先端の合成技術が駆使されました。特に、主人公が光り輝きながら分解・再構築されるシーンは、観る者を圧倒する迫力で、後の特撮作品にも多大な影響を与えました。

また、電送人間が街中を自在に移動する描写や、その能力を駆使した犯行シーンも、緻密なミニチュアワークや特殊効果によってリアルに表現されています。電送人間が鉄骨の間をすり抜けたり、建物の壁を透過したりする様子は、当時の子供たちの想像力を掻き立て、大人たちもその斬新な映像表現に驚嘆しました。

さらに、特撮だけでなく、物語に登場する様々なガジェットやメカニックも、当時のSF映画としては非常に先進的でした。大月博士の研究所に置かれた巨大な電子増幅機や、電送人間を追跡するための特殊な装置など、細部にわたるデザインも作品の世界観を豊かにしています。

テーマと社会背景

『電送人間』が公開された1950年代後半は、科学技術が急速に進歩し、人類が宇宙開発や原子力といった未知の領域に足を踏み入れ始めた時代でした。そのような時代背景の中で、本作は「科学の進歩」がもたらす光と影、そしてそれが人間の倫理観に与える影響という、普遍的なテーマを扱っています。

電送という、まさに夢のような技術が、悪意ある人間の手に渡ることで、社会に混乱と恐怖をもたらすという展開は、科学技術の発展に対する当時の人々の期待と不安を映し出しています。また、事故によって人間性を失い、孤独と絶望の中で復讐に燃える電送人間の姿は、技術の進歩の陰で失われていくものへの哀愁も感じさせます。

作品の評価と影響

『電送人間』は、公開当時からその斬新な特撮技術とスリリングなストーリーで高い評価を受けました。東宝特撮SF映画の代表作の一つとして、その後の日本映画、特にSF・特撮ジャンルに多大な影響を与えたことは間違いありません。電送や物質移動といったSF的なアイデア、そしてそれを映像化する技術は、後続の作品にとって大きな刺激となりました。

また、本作は単なるエンターテイメント作品にとどまらず、科学技術の進歩と倫理、人間の心の闇といった、より深いテーマを内包しており、公開から長い年月を経た現在でも、そのメッセージ性は色褪せることがありません。子供から大人まで、多くの観客に夢と驚き、そして考えさせる要素を提供した、まさに名作と言えるでしょう。

その他

『電送人間』は、モノクロ作品ながら、その映像の迫力とストーリーテリングの巧みさから、現在でも根強い人気を誇っています。特撮ファンはもちろんのこと、SF映画や、当時の日本の映画史に興味がある方にも、ぜひ一度はご覧いただきたい作品です。

まとめ

『電送人間』は、1959年に公開された東宝特撮SF映画の傑作です。天才科学者が開発した「電子増幅機」によって、人間を電送するという驚異の技術が実現しますが、その事故から生まれた電送人間が、復讐と欲望のために悪事を働くという物語が展開されます。円谷英二による革新的な特撮技術、特に電送シーンの表現は、当時の観客を魅了しました。科学技術の進歩がもたらす光と影、そして倫理的な問題提起といったテーマも内包しており、単なるエンターテイメントに留まらない深みを持っています。公開から数十年を経た現在でも、その斬新な映像表現と普遍的なテーマは多くのファンに支持され、日本特撮映画史に燦然と輝く一作です。

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