フランケンシュタインの怒り (1973)
概要
『フランケンシュタインの怒り』(原題:The Horror of Frankenstein)は、1973年に公開されたイギリス・アメリカ合作のホラー映画です。ハマー・フィルム・プロダクションズ製作のフランケンシュタイン・シリーズの第7作目であり、ピーター・カッシングがヴィクター・フランケンシュタイン博士を演じるのはこれが最後となりました。本作は、フランケンシュタイン博士の若き日の姿と、彼が創造した怪物との関係に焦点を当て、シリーズの中でも特にダークで哲学的な側面を強調しています。監督はテリー・アードマンが務め、脚本はハマー・フィルムの常連であるジョン・エルダーが担当しました。
あらすじ
博士の誕生
物語は、若き日のヴィクター・フランケンシュタイン(ピーター・カッシング)が、その傲慢さと科学への執着を育んでいく様子から始まります。彼は、人間を凌駕する知性と生命力を持つ存在を創造するという野望を抱き、解剖学と電気化学の分野で秘密裏に研究を進めます。彼の周りには、彼の才能を恐れ、あるいは利用しようとする人々がいます。特に、彼の研究を支援する裕福な芸術家であるベルナルド(デヴィッド・プローブ)と、その援助を受ける代わりに彼の助手となるアンドリュー(ジョン・ペイン)が登場します。
怪物の誕生と苦悩
ヴィクターは、ついに人間の死体の一部を繋ぎ合わせ、生命を吹き込むことに成功します。これが「怪物」です。しかし、この怪物は、ヴィクターが予想したような理想的な存在ではありませんでした。彼は、不完全で、醜く、そして社会から拒絶される存在として誕生します。ヴィクターは、自身の創造物に対して責任を感じるどころか、その醜悪さゆえに怪物から目を背け、彼を牢獄に閉じ込めてしまいます。怪物は、孤独と絶望の中で、人間社会の残酷さを学び、そしてヴィクターへの憎しみを募らせていきます。
復讐の連鎖
怪物は、やがて牢獄から脱走し、ヴィクターへの復讐を誓います。彼は、ヴィクターの人生を破壊するために、彼の周りの人々を次々と襲い始めます。ヴィクターは、自らが作り出した恐怖に直面し、自身の科学的探求がいかに倫理的に破綻していたかを悟り始めますが、時すでに遅し。怪物は、ヴィクターの秘密を暴き、彼の人生を徹底的に苦しめようとします。二人の間には、創造主と被造物という関係を超えた、激しい憎悪と血みどろの戦いが繰り広げられます。
結末
映画の終盤、ヴィクターと怪物は、最終的な対決を迎えます。この対決は、単なる物理的な衝突にとどまらず、善悪、理性と感情、そして創造と破壊といったテーマがぶつかり合う様を描き出します。最終的に、ヴィクターは怪物を倒しますが、その過程で自身もまた、怪物と同じような悲劇的な結末を迎えることになります。科学の探求がもたらす傲慢さと、それによって生み出される倫理的な問題が、重く描かれています。
キャスト
- ピーター・カッシング:ヴィクター・フランケンシュタイン博士
- デイヴィッド・プローブ:ベルナルド
- ジョン・ペイン:アンドリュー
- リンダ・ハミルトン:アナ
- ジョージ・カーディフ: inspector
製作背景
『フランケンシュタインの怒り』は、ハマー・フィルム・プロダクションズが1957年の『フランケンシュタインの逆襲』以来、長年培ってきたフランケンシュタイン・シリーズの集大成とも言える作品です。ピーター・カッシングは、この役柄を複数回演じ、ヴィクター・フランケンシュタイン博士というキャラクターに深みと悲劇性を与えました。本作では、怪物の造形や、その行動原理にも焦点が当てられており、単なるモンスター映画に留まらない、人間ドラマとしての側面も追求されています。テリー・アードマン監督は、シリーズの伝統を守りつつも、よりダークで、心理的な恐怖を強調する演出を試みました。
テーマと解釈
本作の主要なテーマは、「創造の責任」と「人間の傲慢さ」です。ヴィクター・フランケンシュタイン博士は、神にでもなるかのように生命を創造しようとしますが、その結果、自身の倫理観や道徳観から乖離した存在を生み出してしまいます。怪物の苦悩は、社会からの疎外感や、自身の存在理由への問いかけとして描かれており、単なる悪役ではない、悲劇的なキャラクターとして位置づけられています。
また、「科学と倫理」の関係性も重要なテーマです。ヴィクターは、純粋な科学的探求心から行動しますが、その過程で倫理的な境界線を越えてしまいます。その結果、科学の進歩がもたらす危険性や、人間がコントロールできない領域に踏み込むことの恐ろしさが浮き彫りになります。
評価と影響
『フランケンシュタインの怒り』は、公開当時、批評家からの評価は賛否両論でしたが、ハマー・フィルムのフランケンシュタイン・シリーズの中では、そのダークな雰囲気と哲学的なテーマが評価されています。ピーター・カッシングの演技は、この作品の大きな魅力の一つであり、彼の演じるヴィクター・フランケンシュタイン博士は、映画史に残るキャラクターとして記憶されています。
本作は、その後のホラー映画に影響を与え、人間の創造物に対する責任や、科学の倫理的な問題といったテーマを掘り下げる作品の先駆けとなりました。怪物の視点から物語を描くことで、観客は彼に共感する部分を見出し、単なる恐怖の対象としてではなく、複雑な人間ドラマとして作品を捉えることができます。
まとめ
『フランケンシュタインの怒り』は、ピーター・カッシング演じるヴィクター・フランケンシュタイン博士が、自身の創造物である怪物の復讐に苦しむ姿を描いた、ハマー・フィルム・プロダクションズの代表的なホラー映画です。単なるモンスター映画に留まらず、創造主の責任、人間の傲慢さ、そして科学と倫理の境界線といった重厚なテーマを扱っており、観る者に深い問いを投げかけます。シリーズの集大成として、また、フランケンシュタイン伝説を新たな視点から描いた作品として、今なお多くのファンに愛されています。

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