映画『ローズマリーの赤ちゃん』詳細・その他
概要
『ローズマリーの赤ちゃん』(原題: Rosemary’s Baby)は、1968年に公開されたアメリカ合衆国の心理的ホラー映画です。ポーラ・クーパーの同名小説を原作とし、ロマン・ポランスキーが監督・脚本を務めました。
製作背景
本作は、1960年代後半のオカルトブームと、当時のアメリカ社会における不安感を背景に製作されました。ポランスキー監督は、日常の中に潜む異様な恐怖を描き出すことに成功し、観客に強烈な印象を残しました。映画の撮影はニューヨークのプラザホテルと、その周辺で行われ、都会的な景観が物語の不気味さを一層引き立てています。
あらすじ
若い夫婦、ローズマリー(ミア・ファロー)とガイ(ジョン・カサヴェテス)は、ニューヨークのアパートメント「ブラムフォード」に引っ越してきます。ローズマリーは、将来の子供について漠然とした不安を抱きつつも、俳優としての成功を願う夫ガイと共に、新しい生活を始めます。しかし、彼らの隣に越してきたのは、風変わりで年老いた夫婦、ランドー(シドニー・ブラックマー)とロマーナ(ルース・ゴードン)でした。
ランドー夫婦は、ローズマリーとガイに異常なほど親切に接し、次第に二人の生活に深く関わるようになります。ローズマリーは、妊娠を望むようになりますが、経験したことのない奇妙な出来事が頻繁に起こり、体調も徐々に悪化していきます。特に、ある夜に起きた悪夢のような出来事は、彼女の精神を蝕んでいきます。ガイは、女優の仕事が増え、ローズマリーとの時間をあまり取らなくなります。ランドー夫婦は、ローズマリーの体調を気遣うふりをしながら、彼女に怪しげなハーブティーや薬を勧めます。
ローズマリーは、次第に夫や隣人たち、そしてアパートメント自体に隠された邪悪な秘密に気づき始めます。彼女は、自分の子供が単なる子供ではないのではないか、という恐ろしい疑念を抱くようになります。物語のクライマックスで、ローズマリーはついに、彼女を囲む人々の恐るべき正体と、自身の身に起こったことの真実を知ることになります。
キャスト
- ローズマリー・ウッドハウス:ミア・ファロー(Mia Farrow) – 妊娠し、疑念を抱く若い妻。
- ガイ・ウッドハウス:ジョン・カサヴェテス(John Cassavetes) – 俳優として成功を願うローズマリーの夫。
- ランドー氏:シドニー・ブラックマー(Sidney Blackmer) – 風変わりな隣人。
- ロマーナ氏:ルース・ゴードン(Ruth Gordon) – ランドー氏の妻。
- キャスパー・ヘクス:モーデカイ・オレンスキ(Mordecai Orensky) – ローズマリーの友人。
- テリー・ジアス:アンジェラ・エバ・ベック(Angela Eve Beck) – ガイの同僚。
スタッフ
- 監督:ロマン・ポランスキー(Roman Polanski)
- 脚本:ロマン・ポランスキー
- 原作:アイラ・レヴィン(Ira Levin)
- 音楽:クシシュトフ・コメダ(Krzysztof Komeda)
- 撮影:ウィリアム・A・フレイカー(William A. Fraker)
- 製作:ウィリアム・キャッスル(William Castle)
テーマと分析
妊娠と出産への不安
本作の最も顕著なテーマは、妊娠と出産に対する根源的な不安です。ローズマリーの妊娠は、当初は喜びとして描かれますが、物語が進むにつれて、それは恐怖と不信の源となります。彼女の身体の変化は、彼女自身のコントロールを離れて進み、彼女のアイデンティティさえも脅かします。
信頼と裏切り
ローズマリーは、夫、隣人、そして友人といった、本来信頼すべき人々から裏切られていきます。この人間関係における裏切りは、観客に強い不安感を与え、誰を信じるべきかという問いを突きつけます。
宗教的・悪魔的な要素
映画の核心には、秘密結社と悪魔崇拝といったオカルト的な要素があります。ローズマリーの周囲で起こる不可解な出来事は、これらの要素と結びつき、物語を一層不気味なものにしています。特に、彼女が産む子供の正体は、このテーマと深く関連しています。
都会の孤立
ニューヨークという大都会を舞台にしていることも、物語の雰囲気に大きく影響しています。ローズマリーは、人々に囲まれながらも、孤立感と疎外感を深めていきます。アパートメント「ブラムフォード」は、外見は立派ですが、内側には暗い秘密が隠されており、彼女を閉鎖的な空間に閉じ込めます。
音楽
クリシュトフ・コメダによる音楽は、本作の不気味な雰囲気を巧みに演出しています。特に、子供の歌をモチーフにしたテーマ曲は、当初は可愛らしい響きを持っていますが、物語が進むにつれて、その旋律は不穏なものへと変化していきます。この音楽は、観客に深い印象を与え、映画の恐怖を増幅させる重要な要素となっています。
評価と影響
批評的成功
『ローズマリーの赤ちゃん』は、公開当時から批評家から高い評価を受けました。その革新的な恐怖描写、心理的な深み、そして巧みな演出は、多くの映画評論家から称賛されました。主演のミア・ファローの演技は特に高く評価され、彼女は作品の成功に不可欠な存在となりました。
受賞歴
本作は、数々の賞を受賞しています。特に、第41回アカデミー賞では、助演女優賞(ルース・ゴードン)を受賞しました。また、ゴールデングローブ賞にもノミネートされるなど、その功績は広く認められています。
後世への影響
『ローズマリーの赤ちゃん』は、その後のホラー映画に多大な影響を与えました。日常の中に潜む恐怖、心理的スリラー、そしてオカルト的な要素を組み合わせたそのスタイルは、多くの監督に模倣され、現代のホラー映画の礎の一つとなっています。特に、妊娠や出産といった、女性特有の恐怖を描いた点も、革新的でした。
カルト的人気
公開から数十年が経過した現在でも、『ローズマリーの赤ちゃん』はカルト的な人気を誇っています。その時代を超えた恐怖と、巧妙なストーリーテリングは、新しい世代の観客をも魅了し続けています。
その他
『ブラムフォード』アパートメント
劇中に登場する「ブラムフォード」アパートメントは、物語の重要な舞台となります。その古く、威圧的な外観は、不吉な雰囲気を醸し出し、物語の恐怖を象徴するかのようです。このアパートメントは、架空の建物ですが、そのデザインは、ニューヨークの歴史的なアパートメントを参考にしています。
ロマン・ポランスキー監督のキャリア
『ローズマリーの赤ちゃん』は、ロマン・ポランスキー監督のキャリアにおける傑作の一つとされています。この作品で、彼は心理的ホラーの巨匠としての地位を確立しました。監督自身の経験や、現代社会への洞察が、作品に反映されているとも言われています。
原作小説との違い
原作小説も高く評価されていますが、映画版はポランスキー監督独自の解釈と演出によって、より視覚的かつ心理的な恐怖を強調しています。特に、結末の解釈においては、原作とは異なるニュアンスを持つ部分もあります。
まとめ
『ローズマリーの赤ちゃん』は、単なるホラー映画にとどまらず、妊娠・出産への不安、人間関係の信頼と裏切り、そして都会の孤立といった、普遍的なテーマを扱った作品です。ロマン・ポランスキー監督の巧みな演出、ミア・ファローの鬼気迫る演技、そしてクリシュトフ・コメダによる不気味な音楽が融合し、観る者に強烈な印象と深い恐怖を与えます。公開から半世紀以上が経過しても、その革新性と完成度の高さは色褪せず、今なお多くの観客を魅了し続けている、映画史における不朽の名作と言えるでしょう。

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