ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド

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ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド

1968年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、現代のゾンビ映画の礎を築いた革新的な作品です。低予算ながら、その衝撃的な内容と社会風刺で、ホラー映画の歴史に名を刻みました。

作品概要

製作

監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
製作:ジョン・ルッソ
撮影:ジョージ・A・ロメロ、トニー・ウェルチ
音楽:作曲者不明(フリー音源を使用)
公開:1968年10月1日(アメリカ)
上映時間:96分
製作国:アメリカ
言語:英語

あらすじ

ペンシルベニア州の田舎町。兄の墓参りに訪れた兄妹のバーバラとジョニーは、突如現れた狂気に満ちた人々に襲われる。ジョニーが命を落とし、バーバラは車で逃走するが、その先で彼女は奇妙な現象に遭遇する。死者が蘇り、生者を襲い始めたのだ。バーバラは、偶然にも近くの農家に避難していた5人の男女と共に、家に立てこもり、迫りくる「生ける屍」の群れから生き延びようとする。しかし、外部との連絡手段は断たれ、食料も尽きかける中、彼らの間にも不信感と絶望が広がり、恐怖は外部だけでなく内部からも彼らを蝕んでいく。

登場人物

  • バーバラ:主人公。兄を失い、恐怖に怯えながらも生き残ろうとする
  • ベン:黒人男性。冷静沈着で、生存者たちのリーダーシップを発揮しようとする
  • ハリー・クーパー:農家の主。利己的で、地下室に閉じこもろうとする
  • ヘレン・クーパー:ハリーの妻。夫の行動に辟易しながらも、娘のために行動する
  • カレン・クーパー:ハリーとヘレンの幼い娘。感染してしまい、悲劇的な運命を辿る
  • トム:若い男性。ベンに協力する
  • ジュディ:トムの恋人。精神的に不安定になる
  • ジョニー:バーバラの兄。冒頭でゾンビに襲われ死亡する

テーマと解釈

『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、単なるホラー映画に留まらず、当時のアメリカ社会が抱える様々な問題を風刺しています。

社会不安と人種問題

ベンのキャラクターは、人種差別が根強く残る当時のアメリカ社会において、黒人男性がリーダーシップを発揮する姿を描き、その存在自体が社会的なメッセージとなっていました。また、ゾンビの無差別に襲いかかる様は、ベトナム戦争への徴兵、人種暴動、冷戦といった当時の社会不安を反映していると解釈されています。

人間性の崩壊

外部からの脅威だけでなく、生存者同士の意見の対立や猜疑心、そして絶望が、彼らの人間性を徐々に蝕んでいきます。追い詰められた状況下で、人間のエゴイズムや本性が露呈する様は、観る者に深い問いを投げかけます。

メディアの役割

作中では、テレビやラジオを通じて断片的な情報が流され、人々に混乱と恐怖を煽ります。これは、メディアが社会に与える影響力や、情報操作の可能性を示唆しているとも言えます。

製作背景と影響

低予算での製作

本作は、わずか11万4千ドルという低予算で製作されました。しかし、ロメロ監督の斬新なアイデアと、出演者たちの熱演、そして暗く陰鬱な雰囲気作りが見事に融合し、結果として大ヒットを記録しました。

ホラー映画への影響

『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、それまでのホラー映画の常識を覆しました。

  • ゾンビの描写:それまでは比較的おとなしかったゾンビを、俊敏で人肉を喰らう凶暴な存在として描きました。
  • グロテスクな描写:ショッキングで生々しいゴア表現は、観客に強烈なインパクトを与えました。
  • 救いのない結末:ハッピーエンドとは程遠い、暗く絶望的な結末は、ホラー映画の表現の幅を広げました。

これらの要素は、その後の多くのゾンビ映画、ひいてはホラー映画全般に多大な影響を与え、現代のゾンビ文化の基盤を築き上げました。

リメイクと続編

本作の成功を受けて、1990年にはトニー・ランドール監督によるリメイク版が製作されました。また、ジョージ・A・ロメロ監督自身も、『ゾンビ』(1978年)、『死霊のえじき』(1985年)、『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年)、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(2007年)、『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(2009年)といった続編や関連作品を世に送り出し、「リビング・デッド」シリーズを壮大な叙事詩へと発展させました。

まとめ

『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は、その革新的なゾンビ描写、強烈な社会風刺、そして観る者を惹きつける圧倒的な恐怖で、ホラー映画の歴史に不滅の足跡を残した傑作です。公開から半世紀以上が経過した今もなお、その魅力は色褪せることなく、新たな世代の観客を恐怖と興奮の渦へと誘い続けています。低予算映画の可能性を証明し、後の多くのクリエイターに影響を与えた本作は、映画史における重要な一作と言えるでしょう。

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