バンパイア・ラヴァーズ (1970)
作品概要
1970年に公開されたイギリス・イタリア合作のゴシックホラー映画。「カーミラ」を原作とした作品群の中でも、特に「血まみれの処女」(1970年)、「吸血鬼の血」(1971年)と並んで「カーミラ三部作」と呼ばれることが多い。監督はロイ・ウォード・ベイカー。イングリッド・ピットが演じる主人公の女吸血鬼ミーシュカの妖艶さと、その官能的な魅力、そして独特の映像美が、後の吸血鬼映画に多大な影響を与えた作品である。
あらすじ
冒頭
18世紀の東ヨーロッパ、カルパチア地方。ある日、カーミラという名の美しき貴族の娘が、不幸な事故により両親を亡くし、孤児となる。彼女はシュタイナー伯爵夫妻の屋敷に引き取られるが、そこは、シュタイナー伯爵夫人ミーシュカが密かに女吸血鬼として生きていた場所だった。
カーミラとミーシュカ
ミーシュカは、カーミラに秘められた血の運命を感じ取り、彼女を自身の血族に迎え入れようと誘惑する。カーミラは、ミーシュカの圧倒的な美しさと、抗いがたい魅力に次第に惹かれていく。二人の間には、禁断の愛が芽生え始める。ミーシュカは、カーミラに血を吸わせることで、彼女を吸血鬼へと変貌させていく。
villal への襲撃
一方、villalの邸宅では、若い娘たちが次々と原因不明の病で衰弱死するという事件が相次いでいた。村人たちは、悪魔の仕業だと噂し、恐怖に怯えていた。事件の真相を追うライデル神父は、その黒幕がミーシュカであると確信する。
対決と結末
ライデル神父は、カーミラを救うためにミーシュカに立ち向かう。壮絶な戦いの末、ミーシュカは倒されるが、カーミラは吸血鬼としての血を宿したまま、一人、森へと姿を消していく。彼女の運命は、そして彼女の血は、これからも受け継がれていくのだろうか…という余韻を残して物語は幕を閉じる。
キャスト
- イングリッド・ピット (ミーシュカ役)
- パメラ・ドゥーラン (カーミラ役)
- ピーター・カッシング (ライデル神父役)
- マデリーン・カー (シュタイナー伯爵夫人役)
スタッフ
- 監督:ロイ・ウォード・ベイカー
- 製作:ハリー・アラン・タワーズ
- 脚本:ジェリー・ゴメス
- 撮影:アーサー・イードン
- 音楽:ハリー・ロビンソン
制作背景と影響
本作は、1970年代のハマー・フィルム・プロダクション作品に代表される、イギリスのゴシックホラー映画の隆盛期に製作された。当時のホラー映画としては、比較的耽美的で官能的な描写が多く、特にイングリッド・ピットの妖艶な演技は、多くの観客を魅了した。カーミラというキャラクターを、単なる悪としてではなく、孤独や悲劇を抱えた存在として描こうとした点も、本作の特徴と言える。
本作は、その後の吸血鬼映画に大きな影響を与えた。特に、女性の吸血鬼を、魅力的で恐ろしい存在として描くスタイルは、多くの後続作品に受け継がれている。また、ゲイカルチャーからの注目も高く、レズビアン的なテーマを内包した作品として、カルト的な人気を博している。
映像と音楽
本作の映像は、ゴシックな雰囲気を強調した、陰鬱で幻想的な色彩設計が特徴である。古城や森といったロケーションの美しさと、血の赤のコントラストが、強烈な印象を与える。ハリー・ロビンソンによる音楽も、不気味さと悲壮感を巧みに演出し、作品の世界観を深めている。
評価と批評
本作は、公開当時から賛否両論あった作品だが、時を経てカルトな名作として再評価されている。特に、イングリッド・ピットのカリスマ性、官能的な演出、そしてゴシックな雰囲気は、多くの映画ファンに支持されている。一方で、ストーリーの単調さや、演出の露骨さを指摘する声もある。
まとめ
「バンパイア・ラヴァーズ」は、単なるホラー映画に留まらず、愛、喪失、そして人間の本能といった普遍的なテーマを、吸血鬼というモチーフを通して描いた、独創的で印象的な作品である。イングリッド・ピットの熱演と、映像、音楽の調和が、時を超えて観客を魅了し続ける理由と言えるだろう。ゴシックホラーのファンはもちろん、官能的で芸術的なホラーを求める方に特におすすめしたい一作である。

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