映画:フランケンシュタイン/娘の復讐
作品概要
『フランケンシュタイン/娘の復讐』(原題:The Curse of Frankenstein)は、1957年に制作されたイギリス・アメリカ合作のゴシック・ホラー映画です。ハマー・フィルム・プロダクションズが製作し、テレンス・フィッシャーが監督を務めました。メアリー・シェリーの古典的SF小説『フランケンシュタイン』を原作としていますが、原作の解釈や物語の展開は大きく異なり、よりショッキングでスリリングなホラー作品として再構築されています。
本作は、ユニバーサル映画の古典的フランケンシュタイン映画シリーズとは一線を画し、ハマー・フィルム独自のゴシック・ホラー路線を確立する記念碑的作品となりました。鮮血が飛び散るようなゴア描写や、怪奇的な雰囲気、そして人間心理の暗部を描き出す作風は、当時の観客に強烈なインパクトを与え、後のホラー映画に多大な影響を与えることになります。
あらすじ
物語は、冷酷で野心的な科学者、ヴィクター・フランケンシュタイン男爵(ピーター・カッシング)が、死体の一部を繋ぎ合わせ、電気刺激によって生命を吹き込むという禁断の実験に没頭するところから始まります。彼は、人間の脳を埋め込むことで、より知的な存在を創造しようと試みます。しかし、彼の創造物は、期待とは裏腹に、醜悪で凶暴な怪物(クリストファー・リー)となってしまいます。
フランケンシュタイン男爵は、自らの創造物の恐ろしさに直面し、それを隠蔽しようとします。しかし、怪物は次第に自己の存在意義を問い始め、人間社会への復讐心を燃え上がらせていきます。怪物は、その恐るべき力と残忍さをもって、フランケンシュタイン男爵とその周辺の人々に恐怖を植え付け、悲劇的な事件が連鎖していきます。
物語は、フランケンシュタイン男爵の従兄弟であるポール・カラム(メラ・ディンディ)の視点も交えながら描かれます。カラムは、男爵の恐ろしい実験の真相と、怪物の悲劇的な運命を知ることになり、事態はさらに複雑化していきます。
キャストとキャラクター
ヴィクター・フランケンシュタイン男爵
ピーター・カッシングが演じるフランケンシュタイン男爵は、冷徹で野心的、そして傲慢な科学者として描かれます。自身の科学的探求心のために倫理や道徳を軽視し、その結果として悲劇を生み出してしまいます。カッシングの卓越した演技は、男爵の知性と狂気を巧みに表現し、キャラクターに深みを与えています。
怪物
クリストファー・リーが演じる怪物は、単なる恐ろしい存在ではなく、その悲劇的な出自と苦悩も描かれます。醜悪な外見とは裏腹に、知性を持ち、人間からの拒絶や迫害に苦しみます。リーの存在感あふれる演技は、怪物の恐怖と悲哀を際立たせています。
ポール・カラム
メラ・ディンディが演じるカラムは、物語の語り部であり、フランケンシュタイン男爵の行為の目撃者となります。彼は、男爵の実験の恐ろしさ、そして怪物の人間らしい側面を知ることで、観客の共感を呼び起こします。
制作背景と特徴
『フランケンシュタイン/娘の復讐』は、ハマー・フィルム・プロダクションズがユニバーサル映画の古典的ホラーリメイクに乗り出した初期の作品であり、その後のハマー・フィルム・ホラーのスタイルを決定づけました。
ハマー・フィルム・ホラーの確立
本作は、それまでの白黒映画とは異なり、鮮やかな色彩(テクニカラー)で撮影されており、血の色や怪物の肌の質感などをよりリアルに、そしてショッキングに表現することに成功しました。この色彩表現は、ハマー・フィルムのホラー映画のトレードマークとなり、観客に強烈な視覚体験を提供しました。
原作との差異
メアリー・シェリーの原作小説は、哲学的なテーマや人間の創造性、責任といった要素を深く掘り下げていますが、本作はよりエンターテイメント性を重視したホラー作品として再構築されています。フランケンシュタイン男爵のキャラクター造形や、怪物の造形、そして物語の展開において、原作とは異なる独自の解釈が加えられています。
批評と評価
公開当時、本作はその過激な描写やスプラッター表現が賛否両論を巻き起こしましたが、その革新的なアプローチと強烈なインパクトは、多くの観客を魅了しました。批評家からは、そのゴシックな雰囲気、ピーター・カッシングとクリストファー・リーの演技、そしてテレンス・フィッシャー監督の演出が高く評価されました。本作は、ハマー・フィルムの代表作の一つとして、ホラー映画史に名を刻むことになります。
続編と影響
『フランケンシュタイン/娘の復讐』の成功を受けて、ハマー・フィルムはフランケンシュタイン・シリーズを複数製作し、ピーター・カッシングはその後もヴィクター・フランケンシュタイン男爵役を演じ続けました。
フランケンシュタイン・シリーズ
本作に続き、『フランケンシュタインの逆襲』(The Revenge of Frankenstein, 1958年)、『怪奇大決戦』(The Evil of Frankenstein, 1964年)、『フランケンシュタインと悪魔の化身』(Frankenstein and the Monster from Hell, 1974年)などが製作され、ハマー・フィルムのフランケンシュタイン・シリーズは、長くファンに愛されることになります。
ホラー映画への影響
本作における鮮血描写や、人間心理の暗部を描く作風は、その後のゴシック・ホラーやスプラッター映画に多大な影響を与えました。特に、科学者の傲慢さとその結果として生じる悲劇というテーマは、多くのホラー作品で繰り返し描かれることになります。
まとめ
『フランケンシュタイン/娘の復讐』は、ハマー・フィルム・プロダクションズが確立したゴシック・ホラーのスタイルを象徴する作品であり、テレンス・フィッシャー監督による革新的な演出、ピーター・カッシングとクリストファー・リーという二大スターの熱演が光る、ホラー映画史における傑作です。原作の哲学的な深みとは異なる、エンターテイメント性の高いショッキングな恐怖と、人間存在の悲哀を描き出した本作は、公開から数十年を経た現在でも、多くのホラーファンを魅了し続けています。その色彩豊かな映像と、恐ろしくも哀しい物語は、観る者に強烈な印象を残すことでしょう。

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