映画「這い回る手」詳細・その他
作品概要
映画「這い回る手」(原題:The Crawling Hand)は、1961年に製作されたアメリカのSFホラー映画です。低予算ながらも、そのユニークな題材と不気味な演出でカルト的な人気を博しました。監督はバート・I・ゴードン。彼の作品は、しばしば独特なクリーチャーデザインと、どこかコミカルさすら感じさせるストーリーテリングが特徴です。
物語は、宇宙飛行士であるマックス・ウェブスター大佐が、不慮の事故で片手を失い、地球に帰還するところから始まります。しかし、この「失われた手」は、単なる肉片ではありませんでした。それは、未知の宇宙線に曝されたことで、意思を持った超自然的な存在へと変貌を遂げていたのです。この「這い回る手」は、マックスの周囲で次々と怪事件を引き起こし、やがて町全体を恐怖のどん底に突き落としていきます。
あらすじ
主人公のマックス・ウェブスター大佐は、宇宙探査の最中に事故に遭い、片腕を失ってしまいます。彼の腕は、衛星に回収された後、大学病院へと運ばれます。そこで、腕は解剖学の教授であるロビンソン博士によって研究対象となります。しかし、ロビンソン博士は、この腕が単なる死んだ組織ではないことに気づきます。宇宙線による突然変異で、手は独自の生命活動と、恐るべき能力を持つようになっていたのです。
手は、ロビンソン博士の研究室から脱走し、町を徘徊し始めます。その目的は不明ですが、それは接触した人間を次々と襲い、操り、あるいは殺害していきます。手は、その行動範囲を広げ、マックスの家族や友人にも危険が迫ります。マックスは、失った腕が引き起こす恐怖に立ち向かわなければなりません。彼は、かつて自分が指揮した部下たちと共に、この邪悪な手に立ち向かうための作戦を練ります。
手は、その驚異的な力で人々を恐怖させ、混乱を引き起こします。例えば、手は電話線を伝って移動したり、ドアの隙間から侵入したりといった、常識では考えられない行動をとります。また、人間に憑依し、その意思を操る能力も持ち合わせており、誰が味方で誰が敵なのか分からなくなる状況が生まれます。マックスは、愛する人々を守るため、そして町に平和を取り戻すために、この異常な脅威を無力化する方法を探さなければなりません。
物語のクライマックスでは、マックスたちはついに「這い回る手」を追い詰めます。しかし、それは単なる肉体的な戦闘ではなく、知恵と勇気の戦いとなります。果たして、マックスは自らの失われた腕が生み出した悪夢を終わらせることができるのでしょうか。
キャスト
- マックス・ウェブスター大佐 役:ハロルド・J・バリー
- ロビンソン博士 役:ルイス・グレイザー
- ヘレン・ウェブスター 役:ドロシー・ハワード
- シャーリー・ウェブスター 役:ジーン・ライアン
- バート・I・ゴードン(カメオ出演)
主演のハロルド・J・バリーは、宇宙飛行士としての葛藤と、自身の一部が生み出す恐怖に立ち向かう人間の弱さを巧みに演じています。ロビンソン博士役のルイス・グレイザーは、科学者としての探求心と、予期せぬ事態に直面する困惑を表現しています。ドロシー・ハワードとジーン・ライアンは、マックスの家族として、恐怖に怯えながらも支えようとする姿を描いています。
制作背景・特徴
「這い回る手」は、1950年代後半から1960年代にかけて隆盛を極めた「B級SF映画」の典型的な作品の一つです。低予算ながらも、その時代ならではの斬新なアイデアと、観客を驚かせようという意欲に溢れています。
本作の最大の特徴は、やはり「這い回る手」というユニークなクリーチャーデザインでしょう。CG技術が発達していない時代に、どのようにして「手」が意思を持って動く様子を表現したのかは、当時の映画ファンにとって大きな関心事でした。特殊効果は、ストップモーション・アニメーションやワイヤーワークなどを駆使して制作されており、そのチープながらも独創的な表現が、逆に独特の不気味さを醸し出しています。特に、手が這い回るシーンや、人間に憑依する描写は、子供の頃に見たトラウマとして記憶に残るという人も少なくありません。
また、本作は宇宙開発競争が激化していた時代背景を反映しています。宇宙への憧れと同時に、未知なる宇宙からの脅威に対する漠然とした不安が、物語の根底に流れています。マックスが宇宙飛行士であるという設定は、そのような時代の雰囲気を色濃く表しています。
監督のバート・I・ゴードンは、他にも「ブラック・スコーピオン」「キング・コングの逆襲」など、数多くのSF・ホラー映画を手掛けており、「特撮の魔術師」とも呼ばれています。彼の作品は、しばしば低予算ながらも、想像力豊かなクリーチャーや、予測不能な展開で観客を楽しませてきました。「這い回る手」も、彼のそうした作風が遺憾なく発揮された作品と言えるでしょう。
評価・影響
「這い回る手」は、公開当時は一部で酷評されたり、B級映画として扱われたりしましたが、時を経てその独特な魅力が再評価されるようになりました。特に、その奇抜なコンセプトと、手作りの特殊効果が、逆にカルト的な人気を呼び起こしました。
本作は、後のSFホラー作品に直接的な影響を与えたというよりは、SF映画のジャンルにおける「奇想天外なアイデア」の可能性を示唆した作品と言えるかもしれません。また、低予算でもアイデア次第で観客を魅了できることを証明し、多くのインディペンデント映画製作者に勇気を与えたとも言えます。
現代の観点から見ると、特殊効果のチープさは否めませんが、それが逆にノスタルジックな雰囲気や、一種のシュールな面白さを生んでいます。ストーリー展開の荒さや、登場人物の行動原理に疑問符が付く部分もありますが、それらも含めて「這い回る手」の個性として楽しまれています。
ホラー映画やSF映画のファン、特にレトロな作品やB級映画を愛する人々にとっては、見逃せない一本となっています。
まとめ
映画「這い回る手」は、1961年製作のSFホラー映画であり、宇宙飛行士が失った手が意思を持った恐るべき存在へと変貌し、町を恐怖に陥れる物語です。低予算ながらも、そのユニークなクリーチャーデザインと、手作りの特殊効果が、独特の不気味さとカルト的な魅力を醸し出しています。宇宙開発競争という時代背景を映し出しつつ、観客の想像力を掻き立てる作品です。現代の視点ではチープに映る部分もありますが、その奇抜なアイデアとノスタルジックな雰囲気は、今なお多くのファンを魅了し続けています。

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