怪談雪女郎

歴代SF映画情報

映画「怪談雪女郎」詳細・その他

作品概要

「怪談雪女郎」は、日本が誇る怪談文学の巨匠、小泉八雲の短編小説「雪女」を原作とした、 1968年(昭和43年)に公開された日本の怪談映画です。東宝が製作・配給を手がけ、監督は気鋭の 三隅研次が務めました。

小泉八雲の描く「雪女」は、その幻想的で哀しい雰囲気に多くの読者が魅了されてきました。この作品は、その神秘的な物語を映像化し、当時の観客に深い印象を残しました。

雪深い山奥で起こる、人間と雪女との禁断の愛、そして悲劇的な結末を描いた本作は、単なる恐怖譚に留まらず、人間の業や宿命といった普遍的なテーマをも内包しています。

あらすじ

物語は、雪に閉ざされた山村から始まります。青年 源助は、吹雪の中、道に迷った美しい女性 お雪と、その母 おときを助け、自分の家に連れ帰ります。お雪の美しさに源助は心を奪われますが、おときはお雪を連れてすぐに姿を消してしまいます。

数年後、成長したお雪は、源助の前に再び現れます。二人は激しい恋に落ち、やがて夫婦となります。しかし、お雪は冬になると姿を消し、春になると戻ってくるという不思議な生活を続けます。源助はお雪の正体に疑問を抱き始めますが、彼女への愛は深まるばかりでした。

ある吹雪の夜、源助はお雪の正体を知ることになります。彼女こそが、あの夜、彼が助けた雪女だったのです。源助は、お雪が雪女であることを証明するために、彼女に「決して雪女のことを話さない」という約束をさせられていました。しかし、源助は、ある事件をきっかけにお雪の正体を妻 よしに漏らしてしまいます。

約束を破られた雪女・お雪は、源助のもとを去り、二度と戻ることはありませんでした。源助は、失われた愛を胸に、雪に閉ざされた山奥で一人、お雪の面影を追い続けるのでした。

キャスト

本作のキャスティングは、当時の東宝が誇る実力派俳優陣によって彩られています。

  • 雪女・お雪:星由里子
  • 源助:加山雄三
  • おとき:田中絹代
  • よし(源助の妻):松本めぐみ
  • 弥助:山茶花究

星由里子は、雪女の神秘的で妖艶な魅力を巧みに演じきり、観客を魅了しました。加山雄三は、雪女に翻弄されながらも、その愛に溺れていく青年を熱演しています。また、大女優 田中絹代がお雪の母・おときを演じ、物語に深みを与えています。

スタッフ

  • 監督:三隅研次
  • 原作:小泉八雲「雪女」
  • 脚本:馬淵薫
  • 製作:田中友幸
  • 音楽:伊福部昭
  • 撮影:福田雅英
  • 美術:育野重光
  • 録音:伴利幸
  • 照明:石井 均

監督の三隅研次は、時代劇などでその手腕を発揮してきましたが、本作では怪談映画というジャンルにも挑戦し、静謐ながらも妖しい雰囲気を巧みに演出しました。伊福部昭による音楽は、作品の世界観を一層引き立て、恐怖と幻想的な雰囲気を高めています。

作品の魅力と評価

映像美と雰囲気

本作の最大の魅力は、その映像美と独特の雰囲気にあると言えるでしょう。雪深い山々の荘厳な風景、雪女の儚くも美しい姿、そして源助の心情を映し出すような静寂。これらの要素が融合し、観る者を独特の世界観へと誘います。

特に、雪女が姿を現すシーンや、源助と雪女が密やかに愛を育むシーンは、幻想的でありながらもどこか切なさを感じさせ、観る者の心に深く刻まれます。

人間ドラマとしての深み

「怪談雪女郎」は、単なる幽霊話ではなく、人間の欲望、愛情、そして約束というテーマを深く掘り下げています。源助がお雪の美しさに惹かれ、人間としての情欲に抗えない様、そして約束を破ってしまう人間の弱さ。これらが、雪女という非現実的な存在との対比で描かれることで、より一層、人間ドラマとしての深みが生まれています。

雪女がお雪として源助の傍にいることの切なさ、そして人間との愛を断ち切らなければならない宿命。その悲劇性は、観る者に深い共感を呼び起こします。

怪談としての怖さ

もちろん、怪談映画としての怖さも健在です。雪女の正体が明かされるシーンや、彼女が去っていく際の孤独感、そして源助が一人残される寂寥感は、静かながらも観る者に chills を走らせます。

本作の怖さは、派手なスプラッターや突然のジャンプ scares ではなく、じわじわと迫りくるような精神的な恐怖、そして背筋が凍るような静寂の中に潜んでいます。

その他

原作との比較

小泉八雲の原作「雪女」は、その簡潔ながらも印象的な描写で多くの読者を魅了してきました。映画版は、原作の持つ幻想的で哀しい雰囲気を忠実に再現しつつ、映像ならではの表現を加えています。

特に、源助とお雪の愛の描写や、雪女の悲しみといった感情面が、俳優の演技や映像表現によってより具体的に描かれています。原作の持つ余白が、映画では映像と音楽によって埋められ、新たな感動を生み出しています。

現代における再評価

公開から時を経て、本作は今なお多くの映画ファンに愛されています。その理由は、時代を超えて共感を呼ぶ普遍的なテーマ、美しい映像、そして巧みな演出にあると言えるでしょう。

近年の日本映画界においても、古典的な怪談をリメイクする動きが見られますが、「怪談雪女郎」は、その先駆けとも言える作品であり、時代劇や特撮映画で培われた東宝の技術力と、人間ドラマを描き出す手腕が見事に融合した、日本怪談映画の金字塔として、今後も語り継がれていくことでしょう。

まとめ

「怪談雪女郎」は、小泉八雲の傑作短編を原作に、三隅研次監督が描いた、美しくも哀しい怪談映画です。雪女と人間の禁断の愛、そして約束を破る人間の業を描き、静謐な映像美と心に染み渡る物語で、観る者に深い感動と恐怖を与えます。

星由里子の神秘的な雪女、加山雄三の純粋な青年、そして田中絹代の存在感ある演技が、物語に深みを与えています。時代を超えて色褪せることのない、日本怪談映画の傑作として、ぜひ一度はご覧いただきたい作品です。

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