怪人ドクター・ファイブスの復活
作品概要
『怪人ドクター・ファイブスの復活』(The Return of Dr. Phibes)は、1972年に公開されたイギリスのホラー映画である。1971年のカルト的な人気を博した『怪人ドクター・ファイブス』(The Abominable Dr. Phibes)の続編にあたる。前作に引き続き、ヴィンセント・プライスが狂気に満ちた天才外科医、ドクター・アントン・ファイブスを演じている。今作では、前作の出来事から数年後、死んだと思われていたファイブスが、巧妙な計画のもとに復活を遂げ、かつての復讐者としての側面をさらに強めていく様が描かれる。監督はロバート・ファウストが務め、前作のダークなユーモアとゴシックホラーの雰囲気を引き継ぎつつ、より大規模で緻密な復讐劇を展開する。
あらすじ
前作の終盤、妻レオーネの死に責任を感じた医師たちへの復讐を終え、自らの命を絶つように見えたドクター・アントン・ファイブス(ヴィンセント・プライス)であったが、彼は実は生きていた。愛する妻の死体とともに、暗闇の中を永遠に彷徨う運命に置かれていたのである。しかし、彼はついに、奇跡的な蘇生を遂げる。その復活の裏には、長年の孤独と妻への深い愛情、そして復讐心に燃える彼の執念があった。
復活したファイブスは、かつての復讐劇よりもさらに大胆で、壮大な計画を練り上げる。彼は、前作で自分を死に追いやったとされる組織、すなわち「協議会」に属する医師たち、さらに彼らに協力した者たち、そして今や自分を「過去の遺物」として葬り去ろうとする者たち全てに、恐るべき天罰を下すことを誓う。
ファイブスは、自身の驚異的な知識と技術、そして前作でも披露された芸術的なまでの巧妙さを駆使し、次々と刺客を送り込む。彼の復讐は、単なる殺戮に留まらない。それは、標的たちの罪を暴き、精神を追い詰める、心理的な拷問でもある。光学的な錯覚、幻覚、そして暗号化されたメッセージなど、ファイブスの仕掛ける罠は多岐にわたり、追う者たちを翻弄する。
今作では、エドワード・ハラウッド警部(ピーター・ジェニングス)と、彼の部下であるワウナー巡査部長(テリー・アレン)が、この不可解な連続殺人事件の捜査にあたる。彼らは、ファイブスの巧妙な犯行と、その背後にある未知の力に戦慄する。 Scotland Yard の捜査網も、ファイブスの出現によって混乱に陥る。
ファイブスは、自身の愛する妻レオーネ(ハリエット・アンダーソン)の死体とともに、自ら設計した壮麗な、そして不気味な地下宮殿に潜伏する。そこでは、妻への愛と、彼を陥れた者たちへの憎悪が、歪んだ形で共存していた。彼の蘇生は、科学技術の粋を集めたものであり、それは彼の天才性と狂気を同時に象徴している。
物語は、ファイブスの復讐がクライマックスへと向かうにつれて、その驚くべき真実と、彼が抱える悲劇が徐々に明らかになっていく。しかし、その復讐の果てに待つものは、果たして彼が望む結末なのだろうか。
登場人物
ドクター・アントン・ファイブス
今作の主人公であり、元天才外科医。妻レオーネの死の責任を負わされた者たちへの復讐を誓い、前作で一度は死んだかに見えたが、驚異的な蘇生を遂げて復活する。その知能と技術は前作を凌駕し、より巧妙かつ大規模な復讐劇を展開する。音楽、機械工学、そして人体に関する深い知識を持ち、それらを駆使して恐るべき罠を仕掛ける。彼の行動原理は、妻への深い愛情と、自分を陥れた者たちへの燃えるような憎悪である。ヴィンセント・プライスが、その狂気と悲哀を巧みに演じている。
レオーネ
ドクター・ファイブスの亡き妻。前作に引き続き、ファイブスの行動原理となる存在。物語の核心において、彼女の存在がファイブスの復讐をさらに激しく、そして悲劇的にさせる。
エドワード・ハラウッド警部
Scotland Yard の警部。ファイブスの不可解な連続殺人事件の捜査を担当する。冷静沈着な捜査官であるが、ファイブスの仕掛ける常軌を逸した犯行に次第に追い詰められていく。
ワウナー巡査部長
ハラウッド警部の部下。真面目で実直な巡査部長だが、ファイブスの脅威に翻弄される。 Scotland Yard の一員として、事件解決に尽力する。
製作背景と評価
『怪人ドクター・ファイブスの復活』は、前作『怪人ドクター・ファイブス』の予想外の成功を受けて製作された。前作のユニークな設定とヴィンセント・プライスの怪演がカルト的な支持を集めたことが、続編製作の大きな原動力となった。監督のロバート・ファウストは、前作のダークユーモアとゴシックホラーの雰囲気を継承しつつ、より大規模な復讐劇と特殊効果を盛り込むことで、観客に新たな驚きを提供しようとした。
映画の制作にあたっては、前作に引き続き、ファイブスの復讐劇を彩る、独特な美術セットや小道具が多用された。特に、ファイブスが潜伏する地下宮殿の造形は、彼の狂気と美意識が融合した異様な空間として描かれている。また、ファイブスが仕掛ける罠の数々は、当時の技術の粋を集めたものであり、観客の想像力を刺激した。
批評家からの評価は、前作と比べて賛否が分かれた。前作の革新性や独自性を高く評価する声があった一方、続編として物語がややマンネリ化している、あるいは復讐劇が過剰であるといった意見も存在した。しかし、ヴィンセント・プライスの演技力は一貫して称賛され、彼の存在が映画に深みを与えているという意見は多かった。
今日では、カルト映画のファンから、前作と並んで愛される作品となっている。その独特な世界観、ブラックユーモア、そしてヴィンセント・プライスの強烈なキャラクターは、時代を超えて観客を魅了し続けている。
関連作品
『怪人ドクター・ファイブスの復活』は、1971年の『怪人ドクター・ファイブス』の続編であり、この2作品は「ドクター・ファイブス」シリーズとして認識されている。このシリーズは、その後のホラー映画に一定の影響を与えたとされており、特に復讐劇を描く作品や、個性的な悪役が登場する作品において、その影響が見られることがある。
まとめ
『怪人ドクター・ファイブスの復活』は、前作の成功を受け、よりスケールアップした復讐劇と、ヴィンセント・プライス演じるドクター・ファイブスの狂気と悲哀をさらに深く掘り下げた作品である。緻密に練り上げられた復讐の計画、独特な美術デザイン、そしてプライスの圧巻の演技が、観る者をダークで幻想的な世界へと誘う。評価は分かれるものの、カルト映画としての地位を確立しており、ホラー映画ファンにとっては必見の一作と言えるだろう。ファイブスの執念と、彼が抱える悲劇的な愛の物語は、観る者に強烈な印象を残す。

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