映画:怪奇ミイラ男 詳細・その他
作品概要
『怪奇ミイラ男』(原題:The Mummy)は、1932年にユニバーサル・ピクチャーズによって製作・公開されたアメリカ合衆国のホラー映画である。カメオ・クローニンが監督を務め、主演はボリス・カーロフが務めた。この作品は、古代エジプトのミイラが現代に蘇るという、後のミイラ映画の原型とも言える物語を描き、ホラー映画の金字塔として、またユニバーサル・モンスターズの一員として、今日でも語り継がれている。
あらすじ
物語は、1920年代のエジプトを舞台に始まる。考古学者のラドクリフ博士とフーマーは、発掘調査の最中、3000年以上前に生きていた古代エジプトのイムホテップという大司祭の墓を発見する。イムホテップは、禁断の魔術を用いて、王の恋人であったアナンカを蘇らせようとした罪で、生きたままミイラにされ、呪いと共に封印されていた。
調査団は、イムホテップのミイラと、彼が愛したアナンカのサバテクという名の女王の墓を同時に発見する。しかし、彼らはイムホテップのミイラを墓から運び出し、カイロの博物館に保管しようとする。その夜、イムホテップのミイラが、突如として蘇り、神秘的な力で博物館から脱走する。
数年後、イムホテップは、アレック・ホルトというエジプト学者に変装し、カイロの街を徘徊していた。彼は、アナンカの生まれ変わりだと信じる若い女性、ヘレン・ホルト(アレックの婚約者)を見つけ出し、彼女を奪い返そうと画策する。イムホテップは、古代の呪文と魔法を駆使し、ヘレンの心を操り、彼女をアナンカの魂を持つ存在として誘惑していく。
一方、フランク・アームストロングという青年が、ヘレンに恋心を抱いていた。彼は、ヘレンがイムホテップの魔力に囚われていることに気づき、彼女を救い出そうと奮闘する。アームストロングは、ラドクリフ博士の遺した日記や、古代エジプトの文献を頼りに、イムホテップの弱点を探る。
物語は、イムホテップの不老不死の力と、それを打ち破るための人間の知恵と勇気の戦いを描く。最終的に、アームストロングは、ヘレンの魂を解放し、イムホテップを滅ぼすための秘策を見つけ出す。
キャスト
- ボリス・カーロフ:イムホテップ / アレック・ホルト
- ジータ・ジョハン:ヘレン・ホルト
- デヴィッド・マNメール:フランク・アームストロング
- アーサー・バイロン:ラドクリフ博士
- エドワード・ヴァン・スローン:フーマー
製作背景と影響
『怪奇ミイラ男』は、1920年代に流行した「エジプト熱」を背景に製作された。第一次世界大戦後のヨーロッパにおけるエジプト考古学の発見や、ツタンカーメン王墓の発見などが、人々のエジプトへの関心を高めた。ユニバーサル・ピクチャーズは、このブームに乗じ、ホラー映画の新たなキャラクターとしてミイラを登場させることを企画した。
ボリス・カーロフの演じたイムホテップは、その不気味さと悲哀を帯びた演技で、観客に強烈な印象を与えた。彼のミイラ姿は、ジャック・ピアースによる特殊メイクによって表現され、その後のミイラ映画におけるメイクの基準となった。
この映画の成功は、ユニバーサル・ピクチャーズが『ドラキュラ』(1931年)や『フランケンシュタイン』(1931年)といった作品と並び、ユニバーサル・モンスターズという人気シリーズを確立する上で、重要な役割を果たした。後のミイラ映画や、SF、ファンタジー作品に多大な影響を与えたことは疑いようがない。
演出と特撮
カメオ・クローニン監督は、静かで不穏な雰囲気、そして心理的な恐怖を巧みに演出した。光と影を効果的に使用した撮影は、ミイラの不気味さを一層引き立てている。また、当時としては画期的な特撮技術が用いられており、ミイラが蘇るシーンや、遠隔操作で物体を動かすシーンなどは、観客に驚きを与えた。
テーマ
『怪奇ミイラ男』は、単なるホラー映画に留まらず、不死、愛、復讐といった普遍的なテーマを内包している。イムホテップの、アナンカへの永遠の愛と、それを奪われたことによる怒りは、彼の行動原理の根幹をなしている。また、現代の人間が、古代の魔術や呪いに立ち向かう姿は、科学と神秘、理性と感情の対立をも示唆している。
リメイクと続編
『怪奇ミイラ男』は、後に数度のリメイクが制作されている。1959年にはハマー・フィルム・プロダクションによる『ミイラ再生』が公開され、1999年にはスティーヴン・ソマーズ監督、ブレンダン・フレイザー主演による『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』が公開され、大ヒットを記録した。また、1940年代には、ジョン・ハック監督、ロン・チェイニー・ジュニア主演による続編『ミイラの逆襲』なども製作されている。
まとめ
『怪奇ミイラ男』(1932年)は、その革新的な特殊メイク、ボリス・カーロフの印象的な演技、そして深遠なテーマ性によって、ホラー映画史に燦然と輝く傑作である。古代エジプトの神秘と恐怖を現代に蘇らせたこの作品は、後の多くの作品に影響を与え、ミイラというキャラクターをホラーのアイコンとして不動のものにした。時代を超えて観る者を魅了し続ける、まさに不朽の名作と言えるだろう。

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