凶人ドラキュラ

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凶人ドラキュラ:詳細・その他

概要

凶人ドラキュラDracula the Unholy)は、1992年に公開されたアメリカ合衆国のホラー映画である。伝説の吸血鬼ドラキュラ伯爵を題材とした作品群の中でも、悪魔的側面人間的葛藤を深く掘り下げた異色作として知られている。

監督はスティーヴン・ソダーバーグが務め、脚本はジェームズ・ガンが担当した。主演のドラキュラ伯爵にはゲイリー・オールドマンが抜擢され、その強烈な存在感と狂気を孕んだ演技は高く評価された。

物語は、15世紀のワラキア地方を舞台に、ドラキュラ伯爵が愛する者を失った悲しみから悪魔に魂を売り渡し、永遠の命と吸血鬼の力を得た経緯を描く。時を経て、19世紀末のロンドンに現れたドラキュラ伯爵が、かつての愛人に瓜二つの女性ミナ・ハーカー(ウィノナ・ライダー)と出会い、その愛を再び取り戻そうとするが、そこにはヴァン・ヘルシング教授(アンソニー・ホプキンス)率いる吸血鬼ハンターたちの存在が立ちはだかる。

製作背景

本作の製作は、ユニバーサル・ピクチャーズコロンビア・ピクチャーズが共同で進めた。当初、監督にはフランシス・フォード・コッポラが候補に挙がっていたが、スケジュールの都合で降板。その後、若手のスティーヴン・ソダーバーグに白羽の矢が立った。ソダーバーグは、従来のドラキュラ像を覆すべく、内面描写映像美に重点を置いた。

脚本のジェームズ・ガンは、ブラム・ストーカーの原作小説に忠実に、しかし現代的な視点を取り入れて再構築した。特に、ドラキュラ伯爵の孤独喪失感、そして人間としての尊厳を取り戻そうとする葛藤は、本作の重要なテーマとなっている。

ゲイリー・オールドマンは、ドラキュラ伯爵役に抜擢されるにあたり、徹底的な役作りを行った。メイクアップには数時間を要し、その姿は観る者に強烈な印象を与えた。また、彼はドラキュラの多面性を演じ分けるため、役作りに没頭し、撮影現場では常に役柄に入り込んでいたという。

キャスト

  • ドラキュラ伯爵:ゲイリー・オールドマン
  • ミナ・ハーカー:ウィノナ・ライダー
  • ジョナサン・ハーカー:キアヌ・リーブス
  • ヴァン・ヘルシング教授:アンソニー・ホプキンス
  • ルーシー・ウェステンラ:モーリ・チョーキン
  • レンフィールド:トム・ウェイト

音楽

本作の音楽は、イェンス・イェンセンが担当した。彼の奏でる荘厳で妖艶な楽曲は、ドラキュラ伯爵の神秘性と恐怖を巧みに表現し、映画の世界観を一層深めている。特に、オープニングテーマは象徴的な旋律として知られている。

映像美と美術

本作は、その圧倒的な映像美でも高く評価されている。撮影監督のマイケル・バリホーズは、ゴシック調のセットデザインと相まって、幻想的かつ耽美的な映像を作り出した。ドラキュラ城の描写は特に圧巻で、異様な迫力陰鬱な雰囲気を醸し出している。

衣装デザイン

衣装デザイナーのエツィオ・ファッチーニは、ドラキュラ伯爵の衣装に細部までこだわり抜いた。中世の騎士のような装束から、19世紀の貴族風の装いまで、彼の衣装はドラキュラの権威退廃を象徴している。ゲイリー・オールドマンが纏う衣装は、彼のキャラクター造形に不可欠な要素となった。

テーマと解釈

『凶人ドラキュラ』は、単なるホラー映画にとどまらず、喪失永遠の苦悩といった普遍的なテーマを扱っている。ドラキュラ伯爵は、愛する者を失った悲しみから吸血鬼となったが、その力は彼を永遠の孤独へと追いやる。彼は、失われた愛を取り戻すために、あるいは人間としての生を取り戻すために、必死にもがく

また、本作は善と悪の境界線の曖昧さも描いている。ドラキュラ伯爵は恐怖の象徴であると同時に、ある種の悲劇的なヒーローとしても描かれる。ヴァン・ヘルシング教授の執念もまた、彼自身の過去の経験に裏打ちされており、単純な勧善懲悪ではない深みが加わっている。

ゲイリー・オールドマンの演技は、ドラキュラの野蛮さ貴族的な憂鬱、そして人間的な弱さを巧みに表現しており、観る者に強い印象を残す。

批評と評価

『凶人ドラキュラ』は、公開当時、批評家から賛否両論を巻き起こした。一部からは、その過激な描写と難解なテーマが敬遠されたが、多くの批評家は、ゲイリー・オールドマンの演技映像美、そして斬新なドラキュラ像を高く評価した。

特に、アート性の高さは多くの映画ファンを魅了し、カルト的な人気を博することとなった。その後のドラキュラ映画に多大な影響を与えた作品として、ホラー映画史における重要な位置を占めている。

興行収入

本作の興行収入は、世界中で約1億ドルを記録した。当初の期待値はそれほど高くなかったが、口コミで評価が広がり、予想を上回るヒットとなった。

まとめ

凶人ドラキュラは、ゲイリー・オールドマンの圧倒的な演技、スティーヴン・ソダーバーグ監督の芸術的な演出、そしてブラム・ストーカーの原作に新たな解釈を加えた脚本が融合した、衝撃的かつ独創的なホラー映画である。単なる吸血鬼映画の枠を超え、愛、喪失、そして人間の内面に深く迫る作品として、今なお多くの観客を魅了し続けている。

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