マタンゴ:詳細・その他
作品概要
『マタンゴ』は、1963年に公開された東宝製作の怪奇特撮映画です。円谷英二が特撮監督を務め、監督は本多猪四郎が担当しました。原作は、アーサー・コナン・ドイルの小説『失われた世界』を基にしたオリジナルストーリーであり、無人島に漂着した人々が、突如変異した巨大キノコ「マタンゴ」に襲われる恐怖を描いています。科学技術の進歩と倫理、そして人間の極限状態での心理を描いた作品として、後世に語り継がれるカルト的人気を誇ります。
あらすじ
豪華客船の事故により、7人の男女が太平洋の孤島に漂着します。彼らは、水も食料も乏しい過酷な環境下で、わずかに残された食料を分け合い、生き残ろうとします。しかし、島に生息する奇妙なキノコ「マタンゴ」は、彼らを襲い始めます。マタンゴに侵食された人間は、次第にキノコ人間へと変貌していくという恐ろしい現象が起こります。生き残った人々は、マタンゴの脅威と、食料を巡る同士討ちの恐怖に直面し、極限状態での人間の醜さや、科学への過信が招く悲劇を目の当たりにすることになります。
登場人物
- 主人公:戸田(演:久保明):飛行機乗り。状況を打破しようと奮闘する。
- ヒロイン:千代(演:麻生みつ子):戸田と共に希望を託す女性。
- 高島(演:佐原健二):科学者。マタンゴの謎に迫ろうとする。
- 藤岡(演:田崎潤):実業家。
- 他の乗客たち:それぞれが異なる立場や思惑を抱え、極限状態での人間模様を織りなす。
マタンゴの正体と恐怖
マタンゴの生態
マタンゴは、この無人島にのみ存在する、謎の巨大キノコです。その胞子を吸い込んだり、食したりした人間は、徐々にキノコ人間へと変貌を遂げます。肉体が変質し、キノコ特有の形状や質感を持つようになり、知性も失われていきます。彼らは、まだ人間の姿を残している者たちを襲い、食料としようとします。
変貌のプロセス
マタンゴに侵食された人間は、まず体調不良を訴え、皮膚が異常に乾燥したり、発疹が現れたりします。やがて、皮膚が厚く硬くなり、キノコの傘のような形状が頭部や体表に現れ始めます。手足は奇妙に歪み、言葉を話すこともできなくなります。最終的には、完全にキノコ状の生物となり、原始的な行動をとるようになります。この変貌の恐ろしさは、人間の尊厳が失われていく過程を視覚的に表現しています。
特撮と美術
円谷英二の特撮
本作の特撮は、怪獣映画の父とも称される円谷英二が担当しました。マタンゴの粘菌のような質感や、キノコ人間の不気味な造形は、当時の技術としては画期的でした。巨大なキノコセットや、特製のマタンゴスーツは、観客に強烈なインパクトを与えました。特に、マタンゴが蠢くシーンや、変貌していく様子の描写は、観る者に生理的な嫌悪感と恐怖を掻き立てます。
独特の世界観
無人島という閉鎖空間での、孤立と絶望が強調された美術も特筆すべき点です。朽ちかけた船の残骸や、鬱蒼としたジャングル、そして突如現れる巨大なキノコ群は、不穏な雰囲気を醸し出しています。薄暗い照明と、効果的な音響効果が、作品の恐怖を増幅させています。
テーマと解釈
科学への警鐘
本作は、安易な科学技術への進歩や、自然への介入が招く恐ろしい結果を描いた風刺とも解釈できます。マタンゴの発生原因は、物語の後半で科学者の推測として示唆されますが、それは人間の傲慢さや、未知なるものへの探求心が引き起こした悲劇であったことを示唆しています。
人間の本質
極限状態に置かれた人間が、理性を失い、欲望に駆られる様も生々しく描かれています。食料を巡る争い、疑心暗鬼、そして自己保身のために他人を犠牲にする行為は、人間の弱さや醜さを浮き彫りにします。マタンゴへの変貌は、単なる肉体的な変化だけでなく、精神的な変質をも象徴していると言えるでしょう。
カルト的な人気
公開当時は、その異様な内容から賛否両論を巻き起こしましたが、時を経て、その斬新なアイデアと不気味な世界観がカルト的な人気を獲得しました。特に、マタンゴの造形や、人間の変貌シーンは、後のクリエイターにも多大な影響を与えています。独特のホラーテイストと、哲学的なテーマが融合した本作は、今なお多くのファンに支持されています。
音楽
本作の音楽は、伊福部昭が担当しました。彼の力強く、時に禍々しい楽曲は、映像に深みと恐怖を与えています。特に、マタンゴが登場するシーンで流れるテーマ曲は、聴く者の心に強烈な印象を残します。
まとめ
『マタンゴ』は、単なる怪奇映画に留まらず、人間の心理、科学の功罪、そして極限状態での倫理観を問う、示唆に富んだ作品です。円谷英二による迫力ある特撮と、本多猪四郎監督の演出が相まって、独特の恐怖世界を構築しています。その強烈なインパクトと、普遍的なテーマは、公開から半世紀以上経った今でも、多くの観客を魅了し続けています。特に、マタンゴというクリーチャーの造形は、日本の特撮史においても特筆すべき存在と言えるでしょう。本作は、ホラー映画ファンはもちろんのこと、,人間の本質や科学のあり方について深く考えたい人々にもお勧めできる、時代を超えた名作です。

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