レイチェル・クーのスウェーデンのキッチン
イギリス出身のフードライター兼料理人のレイチェル・クー。2016年より暮らすスウェーデンの食文化を探検する。スウェーデンの人がのんびりと時間を過ごす森のコテージで、レイチェル流のオリジナルレシピを作ります！
森を歩いてキノコを採ったり、トマトやキャベツの農園を訪ねて生産者のこだわりを聞いたり、伝統あるガラス工房やワッフルの焼き型を作る職人を訪ねます。スウェーデンの雄大な秋の景色も見どころのひとつ。北欧の豊かな自然に向き合う人々の・・・
レイチェル・クー (Rachel Khoo)について
レイチェル・クー (Rachel Khoo) は、イギリス出身のフードライター、料理人、テレビ司会者、そして作家として、世界的に知られる食のクリエイターです。彼女の魅力は、単に美味しい料理を作るだけでなく、そのスタイリッシュなライフスタイル、親しみやすいキャラクター、そして食を通して「生きる喜び (Joie de Vivre)」を伝えるポジティブなメッセージにあります。アートとデザインの世界から料理の世界へ転身した異色の経歴を持ち、パリの小さなアパートのキッチンから世界へと羽ばたいた彼女の軌跡と魅力を、詳しく掘り下げていきましょう。
1. はじめに：レイチェル・クーとは何者か？
レイチェル・クーを一言で表すなら、「食の魔法使い」であり「ライフスタイル・アイコン」と言えるでしょう。彼女は以下の肩書きを持ち、多方面で活躍しています。
料理人 (Cook / Chef): パリのル・コルドン・ブルーで製菓を学び、パティシエとしての基礎を持つ。家庭的でありながら独創的な料理を得意とする。
フードライター (Food Writer): 自身のブログからキャリアをスタートさせ、数多くの料理本を執筆。食に関するエッセイや記事も手掛ける。
テレビ司会者 (Television Presenter): 自身の名を冠した料理番組を多数持ち、イギリスBBCをはじめ、世界各国のテレビ局で活躍。料理コンテスト番組の審査員も務める。
作家 (Author): ベストセラーとなった料理本を多数出版。彼女の本はレシピだけでなく、美しい写真やパーソナルなストーリーも魅力。
彼女が世界中の人々から支持される理由は、伝統的な料理（特にフランス料理やスウェーデン料理）を現代的かつ家庭向けにアレンジする親しみやすさ、アートのバックグラウンドを感じさせるスタイリッシュなセンス、そして何よりも彼女自身の明るくチャーミングな人柄にあります。彼女の料理や番組、書籍に触れると、まるで親しい友人から美味しいレシピと楽しい時間のおすそ分けをしてもらっているような、温かい気持ちにさせてくれます。
2. 生い立ちとキャリアの始まり：アートから食の世界へ
レイチェル・クーのユニークなキャリアは、彼女の多文化的な背景と、料理とは異なる分野での学びから始まります。
多文化的なルーツ: 1980年、イギリスのロンドン南部クロイドンで生まれる。父親はマレーシア華僑、母親はオーストリア人という多文化家庭で育ちました。幼い頃から様々な国の食文化に触れる機会があり、これが後の彼女の料理における多様なインスピレーションの源泉の一つとなります。
アート＆デザインへの道: 料理の世界に進む前は、アートとデザインに情熱を注いでいました。ロンドンの名門芸術大学であるセントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインに進学し、アートとデザインの学士号を取得します。この経験が、後の彼女の料理における色彩感覚、盛り付けの美しさ、写真や書籍のデザインへのこだわりに繋がっていきます。
食への転身: 大学卒業後、当初はファッション業界に進み、トーマス・ピンク（シャツブランド）でPRやeマーケティングの仕事をしていました。しかし、次第に食、特に「甘いもの」への情熱が抑えきれなくなり、キャリアチェンジを決意します。彼女は「人生は一度きり、好きなことを追求したい」と考え、長年の憧れであったパリへ渡ることを決意しました。
パリでの新たな挑戦：ル・コルドン・ブルー: 2006年、パリに移住したレイチェルは、世界的に有名な料理学校「ル・コルドン・ブルー パリ校」に入学し、製菓（パティスリー）のディプロマを取得します。ここでフランス菓子の基礎技術を徹底的に学びました。授業料を捻出するため、オペア（住み込みのベビーシッター兼家事手伝い）として働きながら学校に通う苦学生でした。
フードライターとしての萌芽: パリでの生活や食体験、ル・コルドン・ブルーでの学びなどを記録するためにブログを始めます。これが、彼女のフードライターとしてのキャリアの原点となります。また、卒業後はパリの料理本専門店兼カフェ「La Cocotte」で働きながら、ケータリングサービスや料理教室（特にカップケーキ作り）を手掛けるようになります。フリーランスのフードライターとしても活動を始め、雑誌などに寄稿するようになりました。
3. ブレイクのきっかけ：『The Little Paris Kitchen』
レイチェル・クーの名を世界に知らしめたのは、2012年に出版された料理本と、同名のBBCテレビシリーズ『The Little Paris Kitchen: Cooking with Rachel Khoo』でした。
パリの小さなキッチンという舞台: このプロジェクトのコンセプトは、彼女が当時実際に住んでいたパリの小さなアパートメントの、さらに小さなキッチン（わずか2口コンロ！）で、美味しいフランス料理を作るというものでした。これは、多くの人が抱く「フランス料理は難しくて、広いキッチンがないと作れない」というイメージを覆す、画期的なアプローチでした。
書籍の大ヒット: 2012年初頭に出版された料理本『The Little Paris Kitchen』は、発売されるや否や大きな反響を呼び、イギリスでベストセラーとなりました。その理由は以下の点にあります。
親しみやすいレシピ: ブフ・ブルギニョン（牛肉の赤ワイン煮込み）やコック・オー・ヴァン（鶏肉の赤ワイン煮込み）といった伝統的なフランス料理を、家庭で作りやすいようにシンプルにアレンジ。彼女独自のひねりを加えたオリジナルのレシピも多数掲載。
魅力的なビジュアル: レイチェル自身が登場するスタイリッシュな写真、美しい料理の写真、パリの風景などが満載で、単なるレシピ本を超えた魅力を持っていました。アート＆デザインのバックグラウンドが活かされています。
パーソナルな語り口: パリでの生活エピソードや、レシピにまつわるストーリーが添えられ、読者は彼女の世界観に引き込まれました。
テレビシリーズでの成功: 書籍の成功を受け、同年春にはBBC Twoで同名のテレビシリーズが放送開始。これが彼女の人気を決定的なものにしました。
番組内容: 実際に彼女のパリのアパートのキッチンで撮影され、レイチェルが軽快に、そして楽しそうにフランス料理を作る様子が映し出されました。パリのマルシェ（市場）を訪れたり、地元の職人を紹介したりするシーンも盛り込まれ、視聴者はパリの日常と食文化を追体験できました。
国際的な反響: この番組はイギリス国内だけでなく、世界各国で放送され、レイチェル・クーは国際的なスターダムにのし上がります。日本でもNHK Eテレで『レイチェルのパリの小さなキッチン』として放送され、大きな人気を集めました。
成功の要因分析: 『The Little Paris Kitchen』がなぜこれほど成功したのか、その要因は複数考えられます。
時流に合ったコンセプト: 「家で本格的な味を、手軽に楽しみたい」というニーズに応えた。
キャラクターの魅力: レイチェル自身の明るく、親しみやすく、少し風変わり (quirky) なキャラクターが視聴者や読者を魅了した。
憧れのパリ: 多くの人が憧れるパリのライフスタイルを、等身大の視点から魅力的に描いた。
ビジュアルの力: おしゃれなファッション、可愛いキッチン、美味しそうな料理、美しいパリの風景といった視覚的な要素が、特に女性層からの強い支持を得た。
4. その後の活躍とキャリア展開：パリから世界へ
『The Little Paris Kitchen』での成功を足掛かりに、レイチェル・クーは活動の幅をさらに広げていきます。
続々と出版される料理本:
『My Little French Kitchen』(2013): パリだけでなく、フランス各地を旅して出会った地方料理や食材に焦点を当てた一冊。ブルターニュ、プロヴァンス、ボルドーなど、各地域の特色あるレシピを紹介。
『Rachel Khoo’s Kitchen Notebook』(2014): ロンドン、パリ、ストックホルム、イスタンブールなど、世界中を旅する中で得た食のインスピレーションやアイデアをスケッチブックのようにまとめた、よりパーソナルな内容。
『The Little Swedish Kitchen』(2018): 結婚と移住を機に生活の拠点となったスウェーデンでの暮らしと、スウェーデンの食文化（フィーカ、ミートボール、シナモンロールなど）を探求した一冊。
『Rachel Khoo’s Chocolate』(2021): 彼女が愛してやまないチョコレートに特化したレシピブック。初心者向けから上級者向けまで、様々なチョコレート菓子や料理を紹介。
これらの書籍は各国語に翻訳され、世界中の料理愛好家に読まれています。
国際的なテレビ出演:
自身の名を冠した番組シリーズ（『Rachel Khoo’s Kitchen Notebook』、『Rachel Khoo’s Cosmopolitan Cook』など）がイギリスやオーストラリアで制作・放送。
オーストラリアの人気製菓コンテスト番組**『Zumbo’s Just Desserts』**では、著名なパティシエ、アドリアーノ・ズンボと共に審査員を務め、新たな一面を見せた。
スウェーデン移住後は、BBCで**『My Swedish Kitchen』**が放送され、スウェーデンの食とライフスタイルを紹介。
イギリスの長寿料理コンテスト番組**『Great British Menu』**に審査員として参加。
料理を作るだけでなく、食に関する旅番組のホストを務めたり、審査員として専門的な知識を披露したりと、テレビパーソナリティとしての地位を確立しています。
デジタルプラットフォームでの発信:
ウェブサイト・ブログ: キャリアの原点であるブログを継続し、レシピ、旅の記録、ライフスタイルに関する情報を発信。
SNS: InstagramやYouTubeチャンネルを活用し、料理動画、日々の暮らし、家族との時間などを共有。特にInstagramでは、美しい写真と共に多くのフォロワーと交流しています。
オンライン料理教室『Khoolect』: 2021年に自身のオンライン料理教室プラットフォーム『Khoolect』を立ち上げ。購読者向けに限定レシピ動画や記事、ライブQ&Aなどを提供し、ファンとのより深い繋がりを築いています。
ブランドコラボレーション: その人気とスタイリッシュなイメージから、様々な食品ブランドやキッチン用品メーカーとのコラボレーションも行っています。
5. レイチェル・クーの料理スタイルと哲学：食を楽しむということ
レイチェル・クーの料理には、彼女ならではのスタイルと、食に対するポジティブな哲学が貫かれています。
シンプルさとアクセシビリティ: 彼女のレシピは、基本的に家庭で手に入る食材を使い、特別な道具や複雑な技術を必要としないものが中心です。「料理は難しく考えず、もっと気軽に楽しむべき」というメッセージが込められています。
創造性とツイスト: 伝統的なレシピを尊重しつつも、必ずどこかに彼女らしい「ひねり (twist)」を加えます。意外な食材の組み合わせ、盛り付けの工夫、現代的な解釈など、常に新しいアイデアと遊び心に満ちています。
多文化的な融合: マレーシア、オーストリア、イギリス、フランス、スウェーデンといった、彼女自身のルーツや生活経験が、料理のインスピレーションとなっています。様々な国の料理の要素を取り入れ、独自のフュージョンスタイルを生み出すこともあります。
素材への敬意と季節感: 旬の食材を使い、その持ち味を活かすことを大切にしています。地元の市場を訪れ、生産者と交流する様子もしばしば見られます。
“Joie de Vivre”の実践: フランス語で「生きる喜び」を意味するこの言葉は、彼女の食哲学の核心です。料理を作ること、食べること、誰かと食卓を囲むこと。そのすべてを通して、日々の生活の中にある小さな喜びや幸せを見つけ、楽しむことを提案しています。
ビジュアル・プレゼンテーション: アート＆デザインのバックグラウンドを持つ彼女にとって、料理は味だけでなく見た目も重要です。彩り豊かで、どこか絵画のような美しさを持つ盛り付け、スタイリングされた写真は、彼女の料理の大きな魅力の一つです。
失敗を恐れない姿勢: 料理番組では、時折おっちょこちょいな一面を見せたり、失敗談を話したりすることもあります。完璧であることよりも、プロセスを楽しむこと、失敗から学ぶことの大切さを伝えています。
6. 人物像とライフスタイル：魅力の源泉
レイチェル・クーが多くの人々から愛される理由は、その料理だけでなく、彼女自身の人間的な魅力にもあります。
パーソナリティ: 明るく、気さくで、エネルギッシュ。常に笑顔を絶やさず、ポジティブなオーラを放っています。好奇心旺盛で、新しい食文化やライフスタイルに積極的に触れ、それを楽しむ姿は、見ている側にも元気を与えます。
ファッションアイコンとして: 料理番組や公の場で見せるファッションも常に注目の的です。特に、ヴィンテージ風のカラフルでフェミニンなドレスや、特徴的な赤いリップは彼女のトレードマークとなっています。独自のファッションセンスを持ち、ライフスタイル全体がおしゃれなアイコンとして認識されています。
マルチリンガル: 英語を母国語としますが、フランス語とドイツ語も流暢に話します。スウェーデン移住後はスウェーデン語も習得しており、彼女の国際的な活動を支える大きな力となっています。
私生活とワークライフバランス: スウェーデン人の男性と結婚し、二人の子供の母親でもあります。キャリアを追求しながらも、家族との時間を大切にする様子をSNSなどで垣間見ることができます。パリからロンドンへ、そしてストックホルムへと拠点を移しながら、それぞれの場所での生活を楽しみ、それを自身のクリエイションに活かしています。
食への尽きない探求心: 彼女の根底には、食に対する純粋な情熱と探求心があります。新しい味を発見すること、食材の背景を知ること、食卓を囲む人々の笑顔を見ること。それら全てが彼女の活動の原動力となっています。
7. 日本での人気と影響：レイチェル現象
日本においても、レイチェル・クーは非常に高い人気を誇っています。
テレビ放送の影響: NHK Eテレで『レイチェルのパリの小さなキッチン』や『レイチェル・クーのキッチンノート ロンドン/パリ/ニューヨーク/イスタンブール/ストックホルム』などが放送されたことで、日本での知名度が一気に高まりました。特に、週末の午後に放送されることが多く、ゆったりとした雰囲気の中で彼女の番組を楽しむ視聴者が増えました。
翻訳書籍の人気: 『パリの小さなキッチン』をはじめとする彼女の料理本は、日本語に翻訳され、大型書店やオンラインストアで常に人気を集めています。レシピだけでなく、写真集のように眺めて楽しむファンも多いです。
日本で人気の理由:
憧れの世界観: パリやロンドン、ストックホルムといったおしゃれな都市でのライフスタイル、可愛いキッチン、美しい料理は、多くの日本人（特に女性）にとって憧れの対象です。
共感しやすいキャラクター: 完璧すぎない、親しみやすい彼女の人柄に共感を覚える人が多いです。
実用的なレシピ: 見た目はおしゃれでも、日本の家庭で手に入る食材で作れる、意外と簡単なレシピが多いことも支持される理由です。
丁寧な翻訳と吹き替え: NHKの放送では、甲斐田裕子さんによる吹き替えが彼女のチャーミングな雰囲気に合っており、より親近感を高めました。
与えた影響: 日本の料理ブロガーやインスタグラマーの中には、彼女の料理スタイルや写真の撮り方、ライフスタイルに影響を受けている人も少なくありません。彼女の登場は、日本の家庭料理シーンにも「おしゃれで、もっと自由に楽しむ」という新たな風を吹き込んだと言えるでしょう。
8. 近年の活動と今後の展望：進化し続けるクリエイター
レイチェル・クーは、常に新しい挑戦を続け、活動の場を広げています。
スウェーデンからの発信: 現在はスウェーデン・ストックホルムを拠点とし、『The Little Swedish Kitchen』や『My Swedish Kitchen』を通して、北欧の食文化やライフスタイルを世界に紹介しています。
オンラインコンテンツの強化: 自身のウェブサイトやYouTubeチャンネル、そしてオンライン料理教室『Khoolect』を通じて、ファンと直接繋がり、よりパーソナルなコンテンツを提供することに力を入れています。これは、変化するメディア環境への適応とも言えます。
サステナビリティへの関心: 近年では、食に関するサステナビリティ（持続可能性）や環境問題にも関心を示しており、今後の活動でこうしたテーマがより反映されていく可能性もあります。
多角的な活動: 料理人、作家、テレビ司会者という枠にとどまらず、自身のブランドを持つ起業家としても活動しており、今後も食を軸に様々な分野で活躍していくことが期待されます。
新たな食の探求: 彼女の尽きない好奇心は、今後も世界中の未知なる食文化へと向かうでしょう。新たな旅、新たな出会いから生まれるであろう、次の著作や番組が待たれます。
9. まとめ：食を通して人生を豊かに
レイチェル・クーは、アートの世界から食の世界へと情熱を追い求め、パリの小さなキッチンから世界的な成功を収めた、現代を代表するフードクリエイターの一人です。彼女の魅力は、単に美味しいレシピを提供するだけでなく、食を通して日々の生活を豊かに彩るヒントを与えてくれる点にあります。
親しみやすい人柄、創造性あふれる料理、スタイリッシュなビジュアル、そして「生きる喜び」を大切にするポジティブな姿勢。これらが組み合わさることで、彼女は世界中の人々を魅了し続けています。これからもレイチェル・クーは、私たちに新しい味覚の発見と、食卓を囲むことの素晴らしさを教えてくれることでしょう。彼女の今後の活躍から目が離せません。
この記事を書いた人
