映画:ロバと王女
概要
『ロバと王女』(原題:Peau d’âne)は、1970年に公開されたフランスのミュージカル・ファンタジー映画である。ジャック・ドゥミが監督を務め、シャルル・ペローの同名の童話を基にしている。物語は、美しくも悲しい運命を背負った王女が、魔法の力と現実の愛の間で揺れ動きながら、自らの幸福を掴み取ろうとする姿を描く。華麗な衣装、美しい音楽、そして独特な映像美が融合した、まさに「おとぎ話」の体現とも言える作品である。
あらすじ
王の悲願と王女の苦悩
ある王国に、美しく賢明な王がいた。王は二人の美しい王妃を亡くしていたが、三度目の結婚を望んでいた。しかし、彼の美貌と富、そして何よりも自身の美しさから、彼が娶ることができるのは「自分自身よりも美しい女性」だけだった。長年、彼はそんな女性が現れることを願っていた。そして、ついに彼の願いは叶い、三番目の王妃が現れる。彼女は王の理想を遥かに超える美しさを持っていた。しかし、彼女には王が知る由もない秘密があった。それは、彼女が亡き王妃の姉であり、魔法の力を持っていたこと。彼女は王の愛に応えるべく、王の願いを叶え、そして自らの命を犠牲にして、王の娘として生まれ変わることを選んだのである。
ロバの皮の王女
年月が経ち、王妃は世を去る。残されたのは、亡き母の面影を宿す、類い稀なる美しさを持つ王女だった。王は、亡き王妃への誓いを胸に、娘である王女を娶ることを決意する。王女は、父親である王から結婚を迫られるという、あまりにも理不尽で悲惨な運命に苦悩する。彼女は、魔法の力を持つ妖精の助けを借り、王の求婚から逃れるために、「ロバの皮」を被って城を去ることを決意する。ロバの皮は、ただの毛皮ではなく、「毎日金貨を産み出す」という不思議な力を持っていた。王女は、そのロバの皮を纏い、誰にも見破られぬよう、どこまでも歩き続ける。
身分を隠して
ロバの皮を纏った王女は、ある日、小さな国の王子との出会いを果たす。王女は、自身の正体を隠し、「ロバの皮」という名前で、王子に仕える召使いとなる。王子は、初めは彼女の身なりや素朴さに気づかず、ただの召使いとして接していた。しかし、王女が時折見せる、「ロバの皮」の下から覗く、その気品ある美しさや、類い稀なる歌声に、徐々に心を惹かれていく。王女は、王子への淡い恋心を抱きながらも、自身の正体を明かすことのできない孤独と葛藤に苦しむ。
真実の愛と解放
ある日、王子が主催する舞踏会で、王女は「ロバの皮」を脱ぎ捨て、本来の美しい姿を現す。その姿に、王子は衝撃を受ける。そして、彼女が「ロバの皮」の王女であり、王国を追われた悲劇の王女であったことを知る。真実を知った王子は、彼女への愛を確信し、彼女の過去の悲劇から救い出すことを決意する。二人の愛は、王子の両親をも動かし、困難を乗り越え、王女はついに自身の幸福を手に入れる。
キャスト
本作の魅力の一つは、豪華なキャスト陣である。
- カトリーヌ・ドヌーヴ:王女(ロバの皮)
- ジャン・マレー:王
- ジャック・ペラン:王子
- ダニー・サン=シモン:妖精
音楽と映像
ミシェル・ルグランによる楽曲
本作の音楽は、著名な作曲家ミシェル・ルグランが手掛けている。王女が歌う「ロバの皮」の歌をはじめ、映画全体を彩る楽曲は、物語の幻想的な雰囲気を一層高めている。特に、「ロバの皮」という楽曲は、物語の核心を捉え、王女の悲しみと希望を歌い上げる名曲として知られている。これらの楽曲は、映画の感動を決定づける要素であり、観る者の心に深く響く。
ジャック・ドゥミの芸術的演出
監督ジャック・ドゥミの芸術的な演出も光る。色彩豊かな衣装、夢のようなセットデザイン、そして詩的な映像表現は、観る者を「おとぎ話」の世界へと誘う。特に、王女が「ロバの皮」を纏って旅をするシーンや、舞踏会のシーンなどは、幻想的で忘れがたい映像美を生み出している。ドゥミ監督は、童話の世界を、単なる子供向けの物語としてではなく、大人が見ても楽しめる芸術作品として昇華させている。
テーマ
『ロバと王女』は、単なる童話の映画化に留まらず、いくつかの深遠なテーマを含んでいる。
- 不条理な運命との戦い:王女は、自身の意志とは無関係に、父親との結婚という過酷な運命に直面する。彼女は、魔法や「ロバの皮」という奇跡の力を借りながらも、最終的には自身の力でこの運命に立ち向かい、乗り越えようとする。
- 真実の愛の力:王女は、「ロバの皮」という仮面の下で、真の自分を隠さなければならなかった。しかし、王子との出会いにより、彼女は自身の美しさや内面が愛されることの喜びを知る。そして、真実の愛が、どのような困難をも乗り越える力となることを示唆している。
- 自己発見と解放:王女は、「ロバの皮」を纏うことで、社会的な制約や身分から解放され、真の自分自身を見つめ直す機会を得る。そして、自己の価値を認識し、愛されることの尊さを学び、最終的に自分自身の幸福を掴み取る。
まとめ
『ロバと王女』は、美しくも悲しい童話の世界を、華麗な映像と感動的な音楽で描き出した、珠玉のミュージカル・ファンタジー映画である。カトリーヌ・ドヌーヴの圧倒的な美しさ、ミシェル・ルグランの心に響く楽曲、そしてジャック・ドゥミの芸術的な演出が一体となり、観る者を夢のような世界へと誘う。不条理な運命に立ち向かい、真実の愛を貫き、自己の幸福を掴み取る王女の姿は、時代を超えて多くの人々に感動と希望を与え続けている。単なる童話の映画化としてだけでなく、人生における困難や愛の力、そして自己発見の旅を描いた、普遍的なメッセージを持つ作品と言えるだろう。

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