四畳半タイムマシンブルース - キャラムービーズ

『四畳半タイムマシンブルース』(よじょうはんタイムマシンブルース)は、森見登美彦氏による小説です。2020年7月29日にKADOKAWAより単行本が刊行されました。本作は、森見氏自身の代表作の一つである『四畳半神話大系』(2004年)の登場人物たちが、劇団ヨーロッパ企画の代表作である舞台劇および映画『サマータイムマシン・ブルース』(2001年初演、2005年映画化)の世界観と融合するという、ユニークな成り立ちを持っています。

具体的には、『四畳半神話大系』のキャラクターや設定をベースに、『サマータイムマシン・ブルース』のプロット(タイムマシンを巡る騒動)を組み込んだ続編、あるいはスピンオフ的な作品と言えます。森見氏の独特な文体とユーモア、そして京都の学生街を舞台とした世界観はそのままに、タイムトラベルSFコメディの要素が加わり、新たな魅力を生み出しています。

2022年には、湯浅政明監督によるアニメ『四畳半神話大系』の主要スタッフが再集結し、夏目真悟監督のもとでアニメ映画化、およびディズニープラスでの配信限定アニメシリーズ(全6話、映画版にオリジナルエピソードを追加・再編集したもの)が制作・公開されました。

あらすじ

物語の舞台は、うだるような暑さが続く真夏の京都、左京区。「私」が暮らす下鴨幽水荘(しもがもゆうすいそう)は、古びた木造アパートであり、彼の部屋は文字通りの四畳半一間です。

物語は、灼熱地獄と化した8月12日の午後、「私」の唯一の救いであったエアコンのリモコンが、悪友である小津(おづ)がこぼしたコーラによって水没し、壊れてしまうところから始まります。絶望に打ちひしがれる「私」と小津。そこに、突如として見慣れない風貌の男子学生・田村(たむら)くんが現れます。彼はなんと、25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたというのです。

未来では下鴨幽水荘のこの部屋は、彼の所属する「京大SF研究会」の部室になっているとのこと。そして、部屋の隅には、なぜか何の変哲もない学生が座り込んでいるような形のタイムマシンが鎮座していました。

「これを使えば、壊れる前のリモコンを取りに戻れるじゃないか!」

「私」は閃きます。昨日、つまり8月11日に戻り、まだ壊れていないリモコンを持ってくれば、この猛暑を乗り切れるはず。しかし、タイムトラベルには「タイムパラドックス」という危険が伴います。過去を変えてしまうと、未来(つまり現在)に予期せぬ影響が出てしまう可能性があるのです。

「私」と小津は、後輩であり想いを寄せるクールな黒髪の乙女・明石(あかし)さん、自らを「カミ」と称する自由人・樋口(ひぐち)師匠、映画サークル「みそぎ」の代表で「私」のライバル(?)である城ヶ崎(じょうがさき)先輩、歯科衛生士の羽貫(はぬき)さんといった、いつもの面々を巻き込みながら、「歴史を変えずにリモコンだけを回収する」という、極めてデリケートなミッションに挑むことになります。

彼らは、タイムマシンを悪用しようとする小津の企みを阻止したり、過去の自分たちに遭遇しないように隠れたり、未来から来た田村くんの存在を隠蔽したりと、四苦八苦。さらには、明石さんが密かに作っていた巨大な飛行船(?)の計画や、近所の銭湯「オアシス」での騒動、城ヶ崎先輩率いる映画サークルが撮影していた奇妙な映画の内容などが、タイムトラベルによって複雑に絡み合っていきます。

果たして「私」たちは、猛暑とタイムパラドックスの危機を乗り越え、無事にエアコンのリモコンを取り戻すことができるのでしょうか?そして、「私」と明石さんの不器用な関係に進展はあるのでしょうか?昨日と今日を行き来する、くだらなくも愛おしい、ひと夏の冒険が描かれます。

登場人物

「私」 (Watashi):

本作の語り手であり主人公。京都大学(作中では言及されないが、『四畳半神話大系』から踏襲)の農学部に所属する(と思われる)男子学生。自意識過剰で妄想癖があり、無意義な学生生活を送っていると感じている。明石さんに好意を寄せているが、素直になれない。エアコンのリモコンを救うため、タイムトラベルに奔走する。
アニメ版声優:浅沼晋太郎(『四畳半神話大系』から続投)
小津 (Ozu):

「私」の唯一無二の(?)悪友。黒い噂の絶えない、妖怪のような男。他人を不幸に陥れることを喜びとするが、どこか憎めない。今回のリモコン水没事件の元凶。タイムマシンを悪事に使おうと画策する。
アニメ版声優:吉野裕行(『四畳半神話大系』から続投)
明石さん (Akashi-san):

「私」と同じ大学の工学部に所属する女子学生。クールで合理的、感情を表に出すことは少ないが、虫が苦手という一面も。毒舌家。「私」に対して、まんざらでもないような素振りも見せる。本作では、タイムマシンの存在を冷静に受け止め、パラドックス回避のための重要な役割を担う。
アニメ版声優:坂本真綾(『四畳半神話大系』から続投)
樋口師匠 (Higuchi-shishou):

大学8回生(あるいはそれ以上)を自称する謎の男。下鴨幽水荘の他の部屋に住み、「私」や小津からは「師匠」と呼ばれ、一種の畏敬(?)の念を抱かれている。常に悠々自適で、時に神のような達観した言動を見せる。タイムトラベル騒動においても、的確(?)な助言を与える。
アニメ版声優:中井和哉(『四畳半神話大系』では藤原啓治が演じたが、逝去に伴い交代)
城ヶ崎先輩 (Jougasaki-senpai):

「私」が一方的にライバル視している先輩。映画サークル「みそぎ」の代表で、自信家。樋口師匠や羽貫さんとは奇妙な三角関係(?)にある。本作でも相変わらず珍妙な映画を撮影している。
アニメ版声優:諏訪部順一(『四畳半神話大系』から続投)
羽貫さん (Hanuki-san):

歯科衛生士。樋口師匠や城ヶ崎先輩とよく飲み歩いている、おっとりとした雰囲気の美女。酒癖が悪く、酔うと奇行に走ることがある。
アニメ版声優:甲斐田裕子(『四畳半神話大系』から続投)
田村くん (Tamura-kun):

本作のキーパーソン。25年後の未来(『サマータイムマシン・ブルース』の時代設定を踏襲)からタイムマシンに乗ってやってきた、やや気弱な男子学生。未来ではSF研究会に所属しており、タイムマシンの管理を任されていた。過去(=「私」たちの現在)での騒動に巻き込まれ、オロオロする。
アニメ版声優:本多力(ヨーロッパ企画所属。映画『サマータイムマシン・ブルース』でも同役を演じた)
相島先輩 (Aijima-senpai):

下鴨幽水荘の住人で、「私」の隣人。常に部屋に引きこもっており、姿を見ることは稀。本作でもその存在感は薄いが、物語の重要な局面で意外な役割を果たす。
アニメ版声優:佐藤せつじ(『四畳半神話大系』から続投)

 テーマと魅力

日常と非日常の融合: エアコンのリモコンを取り戻す、という極めて日常的で些細な目的のために、タイムマシンという非日常的なテクノロジーを使うギャップが、本作のコメディの核となっています。壮大な時間SFの設定を、大学生のくだらない日常に落とし込むことで、独特のユーモアが生まれています。

タイムパラドックスのコメディ: タイムトラベルものの定番である「歴史改変の禁止」「過去の自分との遭遇禁止」といったルールが、登場人物たちのドタバタ劇を加速させます。必死に歴史を守ろうとする彼らの行動が、かえって事態をややこしくしていく様は滑稽であり、緻密に計算されたプロットの妙を感じさせます。

青春と成長(?): 『四畳半神話大系』と同様に、不器用な大学生たちの青春模様が描かれます。特に「私」と明石さんの関係は、タイムトラベルという異常事態を通して、微妙に変化していきます。大きな成長物語ではありませんが、ひと夏の経験を通して、彼らの関係性が少しだけ進展(あるいは確認)される様子が、爽やかな読後感を与えます。

京都という舞台: 森見作品の特徴である、京都の街並みや学生文化の描写が、本作でも重要な役割を果たしています。下鴨神社周辺の雰囲気、古びた学生アパート、銭湯といった具体的なロケーションが、物語にリアリティと独特の情緒を与えています。

作品の融合: 『四畳半神話大系』のキャラクターたちが、『サマータイムマシン・ブルース』の物語構造の中で活き活きと動き回る様は、両作品のファンにとって大きな魅力です。それぞれの作品の持ち味が損なわれることなく、見事に一つの物語として昇華されています。

 制作背景と作品間の繋がり

本作の着想は、アニメ『四畳半神話大系』と、ヨーロッパ企画の舞台・映画『サマータイムマシン・ブルース』の両方に関わっていたアニメプロデューサーからの提案がきっかけでした。もともと森見氏とヨーロッパ企画の上田誠氏は親交があり、互いの作品世界にリスペクトを抱いていました。

上田氏は、『四畳半神話大系』のキャラクターたちがもし『サマータイムマシン・ブルース』の状況に置かれたらどうなるか、というアイデアを温めており、それを森見氏に提案。森見氏がそのアイデアを基に、自身の文体と世界観で小説として書き上げたのが本作です。

そのため、物語の基本的な骨格やタイムトラベルのルール、田村くんをはじめとする一部キャラクターは『サマータイムマシン・ブルース』から、一方で「私」、小津、明石さんといった主要キャラクターや舞台設定、語りのトーンは『四畳半神話大系』から、それぞれ継承・融合されています。両作品を知っていると、より深く楽しめる構造になっていますが、本作単体でも十分に理解し、楽しめるように書かれています。

メディア展開:アニメ版

アニメ映画:

2022年9月30日より3週間限定で劇場公開。
監督:夏目真悟(『ワンパンマン』第1期、『Sonny Boy』など)
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画。原作のプロット提供者であり、『サマータイムマシン・ブルース』の作・演出家でもある)
キャラクター原案:中村佑介(『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』から続投)

音楽:大島ミチル(『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』から続投)
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION「出町柳パラレルユニバース」(『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』から続投)
アニメーション制作:サイエンスSARU(『映像研には手を出すな!』『犬王』など。『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』も制作)

特徴:『四畳半神話大系』の独特なビジュアルスタイルや色彩感覚、早口なナレーションといった要素を踏襲しつつ、夏目監督によるダイナミックな演出が加わっています。原作のユーモアと疾走感を巧みに映像化し、高い評価を得ました。声優陣も、樋口師匠役の中井和哉氏を除き、『四畳半神話大系』の主要キャストが再集結したことも話題となりました。

配信版アニメシリーズ:

2022年9月14日よりDisney+で独占配信開始(全6話)。
映画版を再編集し、配信版オリジナルのエピソード(主に小津と「私」の過去の因縁や、他の登場人物たちの細かな描写が追加されている)や未公開カットを加えて構成されています。
映画版とは異なる視点や、より詳細なキャラクター描写を楽しむことができます。

 まとめ

『四畳半タイムマシンブルース』は、森見登美彦氏の人気作『四畳半神話大系』と、ヨーロッパ企画の代表作『サマータイムマシン・ブルース』という、二つの個性的で魅力的な作品が見事に融合した奇跡のような小説です。京都のうだるような夏を舞台に、エアコンのリモコンを巡るタイムトラベル騒動が、お馴染みのキャラクターたちによって繰り広げられます。

森見氏独特のユーモラスで饒舌な文体、中村佑介氏によるアイコニックなキャラクターデザイン(アニメ版)、そして緻密に練られたSFコメディのプロットが組み合わさり、読者(視聴者)を飽きさせません。単なる続編やクロスオーバーに留まらず、それぞれの作品の魅力を増幅させ、新たなエンターテイメントとして昇華させることに成功しています。

大学生の日常、ほのかな恋愛模様、タイムトラベルの興奮とパラドックスの恐怖(?)、そして何よりも、どうしようもなくくだらなくて愛おしい青春のエネルギーが詰まった快作と言えるでしょう。原作小説、アニメ映画、配信版シリーズ、それぞれの形でこのユニークな世界観を体験することができます。

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